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余命10分 / 2023年7月19日 — 眠い。
昨日の日記で、母の死を前に言葉が話せなくなった少女の話を書いたけれど、ぼくの場合とにかく眠い。毎日平均して10時間は眠るようになったし、昼や夕方に1時間ほどの仮眠を取るようになった。夜はストンと隙間に落ちるように眠ってしまう。移動中はもちろん、食事中、仕事中、急に睡魔が襲ってくる。
42歳という年齢のせいかもしれないけれど、同世代の友人たちがそんなに寝ているとは思えない。
そういえば、ひとりで暮らす父の様子を見に、なるべく山形に帰るようにしているのだけれど、ある日、父も同じことを言っていた。「眠い」と。
仕事も定年退職し「起きる用事がなくなった」という理由だったけれど、あんなに好きで毎朝見ていた NHK テレビ小説は録画で夕方に見るようになったらしいし、静かな朝の静かな食卓に並んでいた炊き立てのごはんに味噌汁、焼き鮭やウインナー、目玉焼き、納豆。それはある日を境に、バターロールとお湯で溶かすコーンポタージュになった。「楽だから」と。
「こんな怠惰な暮らしも1周忌までは許してくれ」
スイッチを切った暗い部屋で、そんなふうにつぶやいた父の言葉があたまから離れない。
ぼくの暮らしも、ぼくの眠気も、8月12日を境に何か変わるだろうか。
加藤淳也
1982年山形出身。東京を拠点に、広告のディレクター・編集者として活動しながら、東京・末広町にて PARK GALLERY を運営。2022年からは執筆業も行う。余命10分は、母の余命宣告を機に書くようになった10分間の日記。
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