加藤淳也

オオイシモヘ 『MAYDAY』 (静岡県静岡市)

多くの小学生がそうであるように他聞にもれずぼくも毎日のように漫画を描いていた。日本中の男子が人生に一度は描くであろう『主人公』が剣を持って冒険するタイプのギャグ漫画である。誰に見せるでもなく描かずにはいられない衝動あれは今思えば ZINE の目覚めかもしれないが、日々廊下を全力でダッシュする少年の有り余るエネルギーと感受性の矛先がノートの上に描かれたスライムかと思うと泣けてくる。けれど、あの時、誰

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山上 健太郎 『2』 (新潟県)

ぼくの髪が少し伸びすぎてる時、ぼくの髪がおかしな方向にハネてる時、ぼくが髪をくしゃくしゃに掻きむしってる時、そんな時は決まってあんまり『よくない』。よくない時期であり、よくない日であり、よくない瞬間である。そういう時は決まって仕事が忙しかったり、生活のリズムが乱れていたり、そのせいで余裕がない。時間が経つのが早い。足並みが揃っていない。昨日のランチが思い出せない。そんな時は「えいっ!」と目に止まっ

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ヤグチリコ 『アサクサジン』 (東京都台東区)

とにかく本とお酒、それと音楽が好きな彼女が指定する待ち合わせ場所は、いつだってお酒が飲めるお店で、遅刻癖のあるぼくに罪悪感を感じさせないよう本を読んで待っている。メールで「遅れる」というと、「もっと遅れて」と返ってくる。

その日は浅草。指定された待ち合わせ場所は昭和の風情漂う喫茶店。指を挟んだ吉行淳之介の文庫本(エッセイ)をそっとポーチにしまいながら、「冷房が効きすぎのくせに瓶ビールはぬるい」と

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近藤学 『至極のブツブツ。夏。』 (東京都江東区)

東京に上京してくるまでは、東京の西と東でこんなに文化(雰囲気)が違うということ知らなかった。ここでいう西は、新宿・渋谷・恵比寿・代官山・中目黒・下北沢・三軒茶屋・吉祥寺・高円寺などの町、いわゆるカルチャーの中心『東京』というイメージかと思う。世田谷という響きも忘れてはいけない(もっと西の東京もあるのですがそれはまた別の話)。

そして銀座や日本橋(あるいは皇居)あたりを境に『東の東京』が広がり始め

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かわのりこ 『Outside LOVE』 (福岡県豊前市)

福岡豊前市という町のことを一度外に置いておいて、『愛』というものについて考えてみる。

例えば『愛は与えるもの』とかそういうのはぼくはピンとこない。時に哀しいほど無償でも時にステークホルダー化する。与えた言葉に酔いしれ、次の瞬間ただの肉塊と化す。たいがい行為(好意)は先で、後には来ない。指先でくすぐると、脳にまで達する、その『神経』の過敏さだけを杓子定規的に愛の正体と錯覚し、結局は自問自答の言い訳

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画家への道 #02「いきなり挫折」

これは画家になるための日記ではなくて、画家を目指そうとしてまったく立ちゆかないか、小さく挫折するまでのぼくの記録です。

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夜明け前のぼんやりとした淡い群青色が、狭いアトリエの窓を染める。その群青色がちょうど買ってきた色鉛筆の「群青」に似ていたので、ぼくは紙を広げ、ペンを持った。白い壁も群青色を吸い込んで、まるで水槽の中みたいだった。いままでアトリエがそんなふうに見えたことなんかなかった

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画家への道 #01「だれだよ」

これは画家になるための日記ではなくて、画家を目指そうとしてまったく立ちゆかないか、小さく挫折するまでのぼくの記録です。

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おとといかな、それとももうすこし前か。思い出せないけれど、とにかく道を歩いていたら、どこからともなく「きみ、絵を描いてみたら?」と誰かが話しかけてきた。振り返ってもだれもいない。その日は気のせいかなと思い、ただただそのまま家路へ。けど、描くべき理由はわかった(理由し

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