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よむラジオ耕耕 #22 「加藤、不良演劇部に入部する」

加藤:最近このラジオでリスナーさんが教えてくれる映画をよく見ていてさ、高校演劇をしていたときを思い出しててね。また昔話をしたいのだけれど、良いかな。

星野:もちろんです。楽しみです。

加藤が演劇をはじめた理由

加藤:僕が入部した高校の演劇部は毎年全国大会を目指すほどレベルの高いところだったんです。説明すると、高校演劇というのは特殊で、甲子園みたいにコンクールが毎年各地方で行われて、次に県大会、東北大会、そして全国大会と段階をあげていくんですよ。さらに内容や演技力はもちろんだけれど『青春っぽさ』や『学生らしさ』が重視されます。むしろ青春合戦なんじゃないかと思うくらいその審査基準はレベルの高さというより、総合力としての『青春力』『あどけなさ』というものが求められるんじゃないかなって思ったほど。下手でがむしゃらであれ的な。そんな中で僕の行っていた高校は全国大会へ行く名門だったけれども最近はなかなか行けない⋯というところだった。強豪だった理由としては先生が地方劇団の座長だったということが大きいかな。権威というか、「おしん」にでたことをよく口にする顧問だったな(笑)。

星野:『青春力』を求めるってなんだかわざとらしいですね(笑)。でも、なぜまた演劇部に入ろうと思ったんですか? サッカーとかバスケとかが人気な中、なかなか珍しいですよね。

加藤:僕が演劇をはじめた理由は不純で、小学校の時に好きだった村岡さんって子が演劇クラブに入っていて、僕も真似して演劇クラブに。王様の役とかやってたな。手にセリフ書いてカンニングしたの覚えてる。で、その子と東京で中学にあがるタイミングで付き合ったんです。なぜか偶然、告られて。女優目指して演劇やるくらいだからもう学年1のヒロインというか。で、同じ中学にあがるとふたりで演劇部に入部するんです。浮かれてたなぁ⋯でも、すぐに僕は山形に転校することに。

星野:ええ ⁉ ドラマみたいな話ですね(笑)。

加藤:で、結局、転校先の山形の中学校には演劇部がなくて、その3年間はじっと我慢して過ごした。静かに、メラメラと燃えてましたよ。「高校に行ったら絶対演劇部に入ってやる⋯!そしてまた村岡さんと演劇をするんだ!」って気持ちを抱えて。だから中学の頃は、図書館にあった戯曲(脚本集)を読んだり、いつか舞台にする時のためにと小説を書いたりしてました。だんだんセリフを考えるようになってただひたすらに脚本を書く日々でしたね。

加藤、不良演劇部に入部する

加藤:で、念願叶って高校へ入学するとほかの部活の誘いもよそに、まっすぐ演劇部へ行って自分から門を叩きました。向こうもびっくり。3年間スレてスレてスカし切った男子が登場。そりゃ驚くよね。で、噂に聞いていた日大山形の演劇部へ。僕の年は全部で男女8、9人くらい。それぞれ入部の目的はあったけど僕だけ脚本演出志望でした。今でもはっきり覚えてるなぁ。他の部活は部活棟っていうプレハブでできた建物に4畳くらいの部室を持っていたんだけど、演劇部だけ特別に衣装や大道具があるので、体育館の裏に1軒の平屋かっていうくらい大きな部室があってね。外にソファを置いて座って漫画読んだり。

星野:そのシチュエーションもまたいいですね。秘密基地みたいで。

加藤:うん。でも入部してすぐにわかる。みんなダメな奴らだったんです⋯不良の溜まり場というか⋯。これ、もう時効だから言うけど、まず先輩からタバコの吸い方を教わっていた。吸い方っていうのは、先生にバレずに吸う方法ね(笑)。部室が体育館の裏だからね、とはいえ先生も見回りに来るから、学校を囲っているフェンスを改造して、そこだけはずして外に逃げれるようにしていたので、見張り番の後輩をつけて先生が来たらすぐに逃げられるようなシステムを作ってて、そのやり方を教わるんだよね。ここを持って外して、外側からここのフックにかけるとまさかフェンスが開くなんて思わない、って。忍者かよって。あとは、見張りの後輩が壁を叩く音の強さで緊急度を表したり。怖い先生、もしくは取り締まり前提の先生がくると壁をめちゃくちゃ大きく叩く。バーンって。それはもうタバコを消す合図じゃなくてフェンス外して逃げる合図。

星野:ヤンキー映画ですね(笑)。

加藤:そう。ほかの演劇部と違って女子より男子の方が多かったし、先輩の友達っていうカテゴリーでヤンキーが出入りしてた。大道具の先輩がさ、イケメンなんだから役者やればいいのに、タバコを吸うために演劇部に入ってるというか、常にイライラしていてカナヅチを振り回していたり⋯。

星野:癖がすごいなあ(笑)。

加藤:でもそんなひとたちでも『稽古』となると気合い入るんですよ。高校演劇って、脚本は多くの場合、もともと高校演劇用に書かれたかのような脚本を代々使いまわすんだけれど、うちはちょっと違うというか、そこでも癖がすごくて。入学してすぐの頃はいろいろ覚えるためにも3年生の卒業公演を手伝う2年生の見学をするんだけど、その時の卒業公演として先輩たちが選んだ舞台が、三谷幸喜の『ショーマストゴーオン』っていう本で、それがめちゃくちゃおもしろくて。その当時、三谷幸喜って言ったら古畑任三郎っていうイメージだったと思うんだけど、三谷幸喜が主宰してる『東京サンシャインボーイズ』の舞台を選んだ!っていうのでめちゃくちゃかっこよく見えたんだよね。あの当時の3年生の先輩たちこそが、あの舞台の俳優にふさわしく見えて、本当にこの高校に入ってよかったなと思ったんです。カッコイイし、みんな輝いていて。ぼくの記憶の中で3年生の先輩ってあの役のまんま。

星野:それはシビれますね。

加藤:それで、ぼくからしたらだけど『伝説の3年生』は卒業して、そこから2年生の先輩との稽古がはじまるんだけど、あの時の興奮をもう一度体験したいと思うようになるんだよね。だから、1年生の当時から舞台監督の先輩のアシスタントみたいな感じでがっつり助監督として舞台を学んで、虎視眈々と『自分』を出す準備をしてた。中学生の時に脚本を書いていたのもあったから、2年生になったら絶対に自分のオリジナルの脚本でやってみたいと言う気持ちがあって。でも2年になる前に先生に見せたら「つまらない」と言われてしまって(笑)。でも、みんながガキくさい青春演劇をやってる中で、オリジナル脚本というのが僕にとっての演劇甲子園で優勝するための武器だったから、絶対おもしろいものを書きたいと思ってた。ずっとずっと、それで2年生になるまでに一生懸命がんばって、学んで、満を持して出したもんだから地区大会は圧勝したよね。あの時の山形市の全演劇部員、高校演劇関係者を震え上がらせた(気がする)。凄すぎて役者でもないのに他の高校の演劇部員からサインを求められたりもしてね。ぼくの本で演じ切った役者たちももうモテモテで。上演後に女子から逃げ回ってたよ。

星野:すごい!加藤さんの脚本・演出のファンができたんですね(笑)。

全国大会への切符は誰の手に

加藤:そして、その本と演技をさらにブラッシュアップして県大会に出るんだけど、そこでも圧倒。拍手も大きかったし、芝居の最中も、舞台袖で、「みんながいいものを見ている」という感じが伝わってくるんだよね。感動の向こう側って感じで終わるんだよね。ぼくらはもちろん手応えがあったし、会場中のみんなが間違いなく日大山形さんが全国大会へ行くだろう。と思っていたら⋯結果発表でぼくらの名前が呼ばれないんですよ。

星野:え、なぜ。

加藤:結果、優勝したのがよくわかんない高校の『泣いた赤鬼』っていう作品で。え、古典やん、みたいな。優勝が発表されたのにみんなが「えぇ⋯」と絶句、ザワザワしてたのをいまでも覚えてる。あれ、日大山形は? 優勝の上ってあったっけ?ってそんな感じ。でも負けは負け。仕方ないと思って観客席でひとりイライラしまくってたら、そのぼくのストレスを察知してなのか、特別枠として『脚本賞』っていうのが急遽作られたみたいで、急すぎて賞状すらなかったけどひとりステージ上に呼ばれたんだよね。なんか天才ですんませんって感じで。でもよくよく考えたら納得いかなくてさ、終わったあと、審査員がいる控室に乗りこんで結果についてなぜかって聞いてみたら「態度が悪い。」と一蹴(笑)。

星野:態度!

加藤:他の高校の芝居を見ている時の態度や素行の悪さをちゃんと見られていたんですね。寝てたし。飽きたらタバコ吸いにいってたし。うるさいし。「お前たちは山形の代表としては恥ずかしくて出せない。」ときっぱり言われました。

星野:ちゃんとした理由で選ばれなかったんですね(笑)。

加藤:あの時の悔しさと景色は忘れられないね。でもさ、そんな理由だけでこの才能を潰してはいけないと、これは山形県の願いとして、特別賞を与えたんだと、後日職員室に呼ばれて賞状を渡された時に言われたね。日大の芸術学部に推薦するから演劇を続けてくれって。

星野:すごいですね。実力では圧倒していたわけだから。その脚本はどうなったんですか?

加藤:おそらく話だと全国大会までは話題作として目を通してもらえたって。そのあとなぜか新聞記者が取材に来たりしたし。でも脚本だけじゃなく演出も見せたかったな。高校演劇にはない、かなり攻めた作品だった。あれは当時革命だったと思うなあ。あの当時、あんな演劇が作れた高校生は全国的に見てもぼくしかいなかったと思う。

星野:でもまさかの『泣いた赤鬼』に⋯。

加藤:そう。で、悔しすぎてそのあと、もう1本自分で脚本を書くんだよね。ぼくらにも『卒業公演』っていうのがやってくるわけで。その本はまさかの3時間に渡る超スペクタクル。しかもこれがまた大絶賛。その話はまた今度だね。

おわり

よむラジオ耕耕スタッフかのちゃんによる文字起こし後記

ドラマ『大豆田とわ子と三人の元夫』の印象的なセリフの中に、「スポーツに全力になれるひとがわからない。勝った、負けた、ただそれの何が楽しいんだ」というようなものがある。でも、中高生の全力に部活に打ち込む姿は、運動部・文化部ともになんて眩しいんだろうと、毎年甲子園を見ながら思う。

賞金がもらえるわけでもなく、打ち込んだ全員が推薦で大学へ行けるわけではない。毎年開催のある大会で、それでも、たった一度のメンバーとたった1日のコンディションで挑む舞台。変哲がないようで、なんて奇跡に近い1日を私たちは過ごしていたのだろうと今回の放送をききながら改めて気づかされた。

ヤンキー天才脚本家加藤さん、痺れました。
どんなサインを書いていたのだろう。

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