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余命10分 / 2023年7月21日 — 母の母の母。

昨日に続いて少しだけ母の実家の話。母方の祖父母の記憶がおぼろげなのはなぜだろう。

母の父と母。つまりぼくの祖父母は、どうやら戦後にかけ落ちしたらしい。戦地・満州から命からがら引き上げてきた祖父・武史と祖母・露子の結婚は何かしらの理由で認められなかったのだ。どのくらいの程度のかけ落ちかは想像もつかないけれど、本家(つまり祖父の実家)が会津若松市内にあると聞くと、遠路はるばるというわけではなさそうだ。ただ母の葬式の時に聞いたおばさんの話によると、武史亡きいまも本家とは絶縁状態。武史の長女にあたる満子おばさんでさえ、いまだ門前払いだという。いったいふたりのあいだに何があったのだろうか。

祖父母の実家の桜坂を登ると、立派な忠霊塔が建っている。戦死した地域のひとたちを祀る場所だ。子どものころは「チューレイトー」の意味なんてわからず、お菓子の名前みたいな公園だと思っていた。石に刻まれた名前は暗号みたいだったし。実際に遊具もあって、よく妹や弟を引き連れ、駄菓子屋に寄ったついでに遊んだ覚えがある。

美しい桜坂。夏の陽射し。汗ばむからだの小さな手のひらの中で駄菓子屋で買ったアイスクリームは溶け、蝉の死骸に甘くたれる。

母の母の母は、どんなひとだったのだろう。ぼくを産んだひとを産んだひとを産んで育てたひとは、どんなひとだったのだろう。ある日恋人といなくなった娘のことをどう案じただろうか。


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