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【ホラー】ほしくさせた客

大好きな靴屋さんで、ふと足元に強い視線を感じたのです……。わたしの履いてきた靴をガン見しているお客さんがいました。ソファーに腰かけた、40代と思われる女性でした。目ヂカラが半端なかったのです。

彼女は店頭の靴5足を出し広げて、試し履きをしている最中でした。全部、わたしの靴とクリソツ(笑)。好みがまったく一緒なのでした。どれも変わらないじゃん、とみんなが感じるベージュ色のパンプスの数々。

彼女は、わたしの足元を指差し、「あの人と同じのが、ほ・し・い!」「同じのが、い・い・の!」「あの靴が、い・いー!」「あれが、買・い・た・いー!」と騒ぎました。これは去年の5月にバーゲンで買った1足。店員さんはすぐさま全国店舗の在庫を調べましたが、あるはずもなく。

彼女はそれでもあきらめず駄々をこね始めました。眼光はギラついて、わたしを食い殺さんばかりでした。「どうして、同じのが、ない、の!?」「あ・れ・が、いい!」。

わたしは怖くなって逃げ帰りました。接客業のかたは苦労が多いものですね。狂気を起こさせた1足。素敵な靴の魔力を知りました。

ありがたいことです。目に留めてくださった あなたの心にも喜びを。