【R18】短篇小説 観覧車(サンプル)
【あらすじ】
由香は容姿に恵まれているとは言えない二十九歳の女性で、NGO団体に所属している。ある日、トラックで桃を売りに来た美しい青年、セイヤに出会い、運命の歯車が狂っていく…。
【本文試し読み】
観覧車が、闇の中で白く発光しながらゆっくりと回転している。逃れられない宿命を意味する、タロットカードの運命の輪のようだ。あの光る箱のひとつひとつに変えることのできない定めが封じ込められて虚空をぐるぐると回り続けているのだ。まるで充足されることのない欲望のように。
すべては終わった。リムジンが新宿を出る少し前に、セイヤにはこれからしばらく海外旅行に行ってくるというメールを打っておいた。もう会うことはない。葛西臨海公園まで来ているので、成田空港までは三十分ほどで着くはずだ。
アメリカン航空で、ニューヨークまで行き、そこからアメリカ領ヴァージンアイランドのセントトーマスまで飛ぶ。英領ヴァージンアイランドまでは、フェリーで行くことができるとガイドブックには書いてある。行ったこともないカリブ海に浮かぶ島に私名義の銀行口座があるなんて、なんだか嘘みたいな話だ。そもそも、そんな南の島に銀行があるということからして現実感がまるでない。
観覧車に乗るのがとても好きだった。透明に光る観覧車の箱の中にいると、闇夜のなかにぽっかりと浮いているように心もとなく、そら恐ろしい。夜空の中にゆっくりと昇っていくにつれて、何もないところに放り出される恐怖に体の奥が粟立つ。誰かと繋がらずにはいられない。セイヤの膝の上に跨るように乗って、唇を寄せる。隣の箱の中の他人の咎めるような視線を受け、挑発するように音を立てて舌を吸う。
セイヤは私より七歳も若い。すらりとして背が高く、長めの髪を茶色く、頬にかかる一筋だけを紅く染めていて、涼しげな切れ長の眼と、細く整った形の鼻に、薄い唇を持っている。ぞんざいなしゃべり方が可愛いくて、いつも何かに飢えて乾いている。どこへ行っても道行く人に蕩けるような視線を投げかけられ、すれ違いざまの溜息を聞くのが痺れるくらいに気分が良くて、一緒に居るだけで抱かれたくなる。それも人に見られるようなところで。
セイヤに出会うまでは、そんなことを考えたことなどなかった。釣り合いの取れた相手を選んで、外に出るときも家の中にいるときも、男女の匂いを漂わせてしまわないように慎重に振舞っていた。
セイヤは他のどんな男とも違う。盲目的にひれ伏しているところを他人に見せつけたい。命令され、言いなりになって雑巾のように扱われているところを、刺すような視線に貫かれて、頭がおかしくなるくらいの羞恥に震えたい。
私は容姿に恵まれているとは言い難い二十九歳の女だ。あるのかないのかわからないくらいの小さな目と、丸い鼻、みかんの皮みたいにでこぼこのある肌に、短い手足を持っている。こんな不細工な女でも、セイヤと一緒にいればどんなことだって出来ると思っていたし、実際に一年かけて今までしたことのないようなことをたくさんした。
セイヤと一緒にいるということが、私を素晴らしい女に見せていたのだ。突出した才能とか、優しく細やかな性格とか、あるいは男を虜にする特殊な性的技術とか、外見からは伺い知ることのできない美点を供えているのではないかという買いかぶった視線で舐めるように全身を見られると、それだけで濡れてくるぐらいに気持ちがいい。
あまり人が乗ってこない雑居ビルのエレベーターの中や、デパートの階段、公園は昼夜を問わず、郊外のディスカウントショップの駐車場など、その気になればいくらでも都合のよい場所を見つけることができた。
セイヤと一緒の時はいつもしたいと思っているので、すぐに入れられてもよかったけど、跪いて奉仕するのが好きなので、ジーンズのファスナーを開けて、すでに硬くなったペニスを口に含む。耐えられなくなると、私は目で懇願する。セイヤは意地悪く、私の頭を押さえつけて、自分の指で慰(なぐさ)めるように命令する。言われたとおりに指を使いながら、近づいてくる誰かの靴音を聞く。心臓が止まりそうになると、あそこも強く震えて指を飲み込みそうになり、早くセイヤのものが欲しいと思う。やっと願いが聞き届けられて、後ろから身体を満たされると、セイヤは、私がどんなに恥ずかしく、みっともない女なのか、を耳元でささやきながら、私の口を手で塞ぐ。うっかり大きな声を出しそうになるのをこらえて、私はセイヤの指の間を舐める。
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