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短編小説 キスを、十回(サンプル)
【あらすじ】
かすみは二十八歳。夫の隆志は結婚して三年目。そろそろ子どもが欲しいと思っている。そんなある日に、高校の同級生だった植村君から、連絡があり再会することに。植村君とは、お互いに好きだったことを知りながらも何の約束もせずに別れた仲。十年ぶりの再会に二人は…。
【本文試し読み】
――皆さんお久しぶりです。今夜は大雪になるようですね。雪が降るとかすみは、無性に本が読みたくなります。まあ降らなくても本ばっかり読んでいるんですけどね。十一月にフルマラソンを走ってから、のんびり、というかだらだらしっぱなしで、更新をサボっておりました。その間に読んだ本の書評をこれからアップしようと思います。――
そこまで書いたところで、続かなくなった。キーボードに置いた指先が冷たくなって、ノートパソコンの画面が黒い節電モードに変わると、私は慌ててマウスを揺り動かした。
「まだ起きてたんだ?」
もう眠ってしまったと思っていた隆志が、いつのまにか後ろに立っていた。
「やだ、隆志こそ」
「ブログで夜更かしもいい加減にしろって」
「だって、これしか楽しみがないんだもん」
隆志には延々とパソコンに向かって本の感想を書き連ねるという行為のどこが面白いのかさっぱり理解できないようだ。隆志に見られてまずいようなことは何ひとつ書いていないけど、覗かれるのは気恥ずかしい。
「他にもすることはあるだろう。今月もがんばろうって昨日言ったばっかりじゃないか」
悪びれずにそういうことを口に出して言うところが、隆志のいいところだ。遠慮し合って悪い方向へ行ってしまうということが私たちの間には、ない。つき合い始めたころは強引すぎるような気がしたけど、ひとたび裏のない性格に慣れてしまうと、いっしょにいるのがとても楽になった。
背中から抱きすくめられると、隆志の体からはかすかな寝汗のにおいが漂ってくる。
「そりゃ言ったけど、終わったばっかりだから今日ははずれだと思うな。あと一週間ぐらいしてからじゃないと、がんばっても意味ないんだってば」
体をよじって逃げようとしたけれど、パジャマの胸元から手を入れられる。キスもしないでいきなり触ってくるようになったのはいつからだっただろうか。すっかり当たり前のことになってしまった。
「嫌がられると、かえってやる気がでるな」
「やだもう、変態みたいなこと言わないでよ」
結婚してもう三年になる。そろそろ子供が欲しいと思って三ヶ月前に避妊をやめた。簡単に妊娠するものだと思っていたのに、作ろうと思ってもなかなかできないものだ。それでも、出会った頃に戻ったみたいな第二の蜜月時代もそう悪いものではない。
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