見出し画像

"クリエイティブ貴族"「後楽園 流店(1700 元禄13年)」[建築探訪記]

画像1

日本三名園の一つ 後楽園

岡山県にある後楽園は日本三名園の一つで知られ、実際に訪れた方も多いと思います。庭園自体もとても素晴らしいのですが、その後楽園の中に小川に囲まれた流店という小さな建物があります。

建物の内部に水が貫く

後楽園は岡山藩主の別邸ですが、この流店は江戸時代その二代目藩主池田綱政が命じ庭園内の休憩所として造られました。実はこの建物、小川から引き込まれた水が建物の中を貫くというとんでもない構造になっているのです。

画像2

画像3

画像4

曲水の宴

なぜ、建物の中に水路を通したのか、一説には、この水路の縁に参加者が座り、流された盃が自分の前を通り過ぎるまでに詩歌を詠み、その盃を飲みもう一度流して次に繋ぐ「曲水の宴」という遊びが行われた、とか・・・

事実かどうかは分かりませんがこの建物の構造と重ねるとその想像をすることはできます。

余談ですが、「Change! 和歌のお嬢様、ラップはじめました。」(曽田正人,講談社) の作中で、平安時代の貴族による歌合と現代のHIPHOPのフリースタイルラップバトルの関連性が描かれています。

盃の流れる一定の時間の中で複数人が歌を詠み合う、という行為はまさに現代のサイファーに通ずる気さえします。

ただ、ビートの代わりに水の流れる時間を使うとは、昔の貴族のクリエイティブさを感じざるを得ません。

画像5

軒が低く抑えられ、柱間が結構飛んでいます。いいプロポーションです。

画像6

柱の間、切断、ズレ

この建物を実測してみると、東西軸の柱間が東の庭園側に向かうほどに大きくなっていきます。一番長いスパンで4メートル近くあります。つまり庭側の視界を開放しようとしているのです。

この工夫で生み出された大きな開口の一つからは、建物内部を流れた水が、松に挟まれた小川に流れ込み、小川の曲がりのところの大刈込(剪定された低木)、さらに奥の林と続き、景色が重なり合い奥行感のある素晴らしい風景が見えます。

画像7

また、東の庭側の面に天井まで伸びずに途中で切断されてしまったような柱があることに気付きます。

実際に西側の対象の位置には柱が存在しています。柱の切断は、建物妻側(短手側)の柱のスパンが小さくなり過ぎることで、庭園への解放感が薄れてしまうことを考慮してここで止めたのでしょうか。

画像8

さらに、ほとんどのスパンが微妙にズレており、そのズレには何らかの意図があるはずです。小さい建物ですが興味が尽きません。季節を変えてまた何度も訪れたい建物です。

6つの石

建物内部に流れる水路には、京都加茂川から取り寄せた6つの石が色々と置かれています。この石は青・赤・紫色と色とりどりになっているそうです。

私が行った時は石の表面が乾いており石の色を確認することが出来ませんでしたが、水に濡れると色が出てくるのかもしれません。

画像9

因みに、二階には水路上部に開けられた穴から上がります。なぜ登りにくいであろうこの場所に付けたんだろうか・・・うーん謎です。


画像10

見晴らし台となっている二階の戸袋が、建物の壁面から飛び出しています。扉を収納したときに、戸袋が景色の邪魔にならないようになっています。景色を見る休憩所の為にここまで考え抜かれたデザインになっているのです。恐るべし。

こうした日本の歴史的建造物を訪れると、先人が表現した素晴らしい自然観や美観を、時代を超えて感じられ、日本人であることを誇らしく思えます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?