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読書と平凡な日常43 運命という罠

 どうも、紅りんごです。読書の秋……グダグダしている内に冬に差し掛かりつつあるので、急いでしたためる次第です。それでは、43冊目となる作品はこちら。

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 43冊目は有名ミステリ作家によるアンソロジー『神様の罠』。運命に翻弄される人間、彼らの特異な人生が描かれる作品です。今回は、各話を順を追って紹介していきたいと思います。


 1話目は、乾くるみ「夫の余命」。病院の屋上から飛び降りた女。その脳裏に浮かぶのは、余命宣告された夫。加速する景色の中で、彼女は夫婦として過ごしてきた日々を思い返していく。その記憶に徐々に感じていく違和感。伏線が見事に回収されるラストには目を見張るものがある。

 2話目は、米澤穂信「崖の下」。雪山で発見された男の死体。雪に囲まれた空間、崖の下という立地、凶器の発見されない犯行現場。警察は、彼と共に雪山を訪れていた友人たちに聞き取りを開始する。そして明らかになる、彼らの間に横たわる因縁。事実が明らかになってなお、真相は雪に閉ざされたままとなる読み解き方の分かれる作品。

 3話目は、芦沢央「投了図」。古本屋を営む夫婦。コロナ禍のとある事件をきっかけに、妻は夫に対して猜疑心を抱き始める。将棋の公式戦で湧く街、積み重なった想いが一つの図を描き出す。コロナ禍における人の不安定な心情を巧みに描き出した少し切ない作品。

 4話目は、大山誠一郎「孤独な容疑者」。マンションの一室で愛した人の遺影と共に静かに暮らす男。その昔、彼は金銭のもつれから、同僚を殺害していた。未解決に終わった事件、それを何故か調査しに来た捜査員達。読み進める毎に膨らむ違和感。その正体が明らかになった時の爽快感がたまらない作品。

 5話目は、有栖川有栖「推理研VSパズル研」。パズル研から推理研の面々に提示されたとある推理ゲーム。推理研に提示されたのは、理由だけだったが、彼らは独自にその背景までも推理していく。論理によって組み立てられる「設定されていない真実」を明らかにしていく推理に魅了される作品。

 6話目は、辻村深月「2020年のロマンス詐欺」。コロナ禍で孤独と焦燥に駆られる大学生。友人に誘われた彼は、ロマンス詐欺のバイトへと足を踏み入れてしまう。健全な性格故に失敗続きの彼は、ある日一人の女性と連絡を交わすようになる。頻繁に連絡を交わす彼は、ロマンス詐欺という本分を忘れ、彼女に惹かれていく。コロナ禍における不安や焦燥、そして破滅を体験していく主人公の姿には、同じ大学生ということもあって共感した。陰鬱な内容こそ続くものの、コロナ禍に対する希望的なメッセージの込められている作品。

 どれも読み解き方が読者に委ねられる部分が感じられる作品でした。特にコロナ禍を題材にした2つの作品は、コロナ禍の今だからこそ胸に響くものがあると感じました。
 ところで、題名の「神様の罠」って何……?と思うかもしれません。私は『運命』だと考えました。人間の行動や性格、それらが導く悲劇。それこそが神様によって仕掛けられた罠でないかと感じました。もちろん、今回の作品は全てが悲劇的な結末というわけではありません。「運命」という神様の罠を乗り越えることで、人間は良い結末を手にできる。そうしたメッセージが題名に込められている気がする……と勝手に思いました。自分の運命を乗り越えようとする、その強い意志がこの時勢を乗り越えるためにも必要かもしれません。
 マスクだけに気を取られて足元が覚束なくなる、なんてことの無いように気をつけていきましょう。それでは、ごきげんよう。

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