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「しあわせのパン」 と珈琲

「しあわせのパン」という映画が好きである。

もう、何度も見ている。

原田知世さんが主演で、夫役には、おとなしい大泉洋。

北海道の月浦というところが舞台で、ぜひ訪れてみたい場所の一つになっている。

その映画の中に出てくるカンパーニュが、もうなんとも言えずに美味しそうなのだ。

焼き立てのカンパーニュを、パリパリばりばり音を立てながら手でちぎり、食事を共にする相手と分け合う。
あのシーンが大好きである。

もわ~んと、焼き立てのパンのにおいが、伝わってくるようだ。

命を終わらせるつもりで訪れた老夫婦が、
「お父さん 明日もこのパン食べたいな。」
の妻の一言で、思いとどまる場面も大好きだ。

そうやねん。
美味しいものって、それはそれはすごいパワーがあるねん。

もしかしたら、お腹よりも、心を満たす度合いの方が大きいかもしれん。
弱っている時には、とくに。

生きるってことが、日常の積み重ねやとしたら、そこに、美味しい体験がたくさんあるといいなあ。

たとえ、嫌なことや、苦しいことがたくさんあって、もうやってられへんわって時にも、美味しいって思える瞬間があったら、ちょっと救われることがある。

この映画を見終わると、100%カンパーニュが食べたくなる。
100%。

そして、100%食べる。
そのために、わざわざカンパーニュを買いに行く。
もう、原田知世になりきりである。
(原田知世ファンの方、映画ファンの方許してな。)

こういう時のカンパーニュは、ゆずれない。
どこのパン屋さんのでもいいってわけではない。
原田知世になりきるためには、やっぱりお気に入りのパン屋さんのカンパーニュでないとあかんのである。
ちょっと遠いそのパン屋さん。
車で小一時間。
でも、労は惜しまへんで。
(ちなみに、「かもめ食堂」を見終わた後は、100%焼き鮭が食べたくなる。そして、100%食べる。こちらは、小林聡美になりきっている。はい。ごめんなさい。)



12月29日の午後。

ピンポ~ン♪

と、インターホンが鳴る。

玄関の扉を開けると、そこには、にこにこ笑顔の友人が、パンの袋を掲げて立っていた。

えっ?
10分ほど前まで、ラインでやりとりしていた相手である。

しかも、彼女は、大阪の都会に住んでいる。
たしか、昨日は仕事納めで、今日は、お父さんの病院に付き添っていたはず。

えっ?

状況が呑み込めず、不審な顔をしている私を見て、大笑いしながら
「来たで~~~。」
と、また、パンの袋を高く掲げて揺らす友人。

その友人は、めちゃくちゃに忙しい人である。
仕事だけでなく、プライベートでも、いろいろと忙しく、それに、1人で立ち向かっている人である。

なので、年末年始の休暇は、とても貴重な時間のはず。
やらねばならんこと、やりたいことなど、いくら時間があっても足りないはず。

そんな貴重な時間を、わざわざ私のために、こんな田舎町にまで足を運んでくれ、申し訳ないなんてもんじゃない。

どうやら、ここ最近の私の低空飛行の体調のことで、心配をかけてしまっていたらしい。

そんなに愚痴っていたんやろうか。

自分では、そんなつもりはなかったんやけど、これは気をつけなあかんなあ。

心配かけてしまったなあ。

その友人は、
心配してるぐらいやったら、思いきって会いに行ったらいいんや
と、突然思い立ったんやそうな。

せっかくやったら、パン好きの私のために、自分がおすすめのパンを持っていこうと、わざわざパンも買いにいってくれたらしい。


こんな遠いところまで、ほんまにごめんなあ~

と謝る私に、

酔狂や。酔狂。わたしの酔狂につき合ってくれて、こっちこそありがとうやわ。

と、これまた粋な返事を返してくる。


さらに、

遠路はるばるやってきて、もし留守やったらどうすんの?

と、たずねる私に、

その時は、パンの袋を玄関にひっかけて帰ってくるつもりやってん。ええねん。ええねん。

と、なんてことないわって感じで答える。

いやいやいやいや。

けっこう、遠いで。
しかも、結構乗り継ぎやら、面倒やで。
こんなことに時間を使ってたら、年末の用事が、済ませられへんやん。

ごめん。ほんまにごめん。

そんなに、わたし、心配かけるようなこと言うてたんかなあ。
自覚がなかっただけに、自分で驚いた。
それだけ、心が弱ってたんかなあ。
ほんまに申し訳ない。


はははは。
申し訳ないと思わせて、申し訳ないわ。
でもな、心配かけまいと、我慢することの方がよくない。

人が死ぬ間際で初めて気づく5つの後悔の一つに、
「もっと心を開いて、感情を表現すればよかったということ」があるねんて。
自分の気持ちを抑え込まんと、言うた方がいいねんて。

はははは。


そんな彼女が持ってきてくれたパンの一つに、カンパーニュがあった。
天然酵母のカンパーニュ。
酸味がほどよく効いていて、私好みの味。

友人の来訪の翌朝、カンパーニュを食す。
噛めば噛むほど、味わい深い。
噛みしめるって、こういうことやねんなあ。

もちろん、カンパーニュのお供には、美味しい珈琲。
お気に入りのカフェのブレンドをセレクト。
珈琲の香りに包まれながら、パリパリばりばりと、思いっきり、音をたてながらカンパーニュを食べ進める。

美味しいカンパーニュと珈琲。


こんなに幸せな年末があるやろか。


来年は、そうやなあ。
低空飛行とかしょぼいこと言うてんと、
あさぎーにょみたいに、思いっきり、日々を楽しみながら過ごしてみよかな。

せやせや。
美味しい体験も、いっぱいしたいなあ。


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