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小豆って、なんてきれいな色なんやろう

集合体が苦手な方には、すみませんの画像である。
そんなことに気配りをするあたり、わたしも集合体がちょっと苦手なんやろうな。

友人に、この写真を送ったら、
「えっ?いかなご?」
って、返事がかえってきた。
さすが、関西圏の友人である。

しかし、これは、いかなごではない。
しかも、今は、いかなごの季節でもない。
関西圏の友人のくせに、そこは、ちょっとどうなのか。


もう少し、よく見て欲しい。
集合体なんかではない。
写真の真ん中に、視線を集中させてほしい。
(ピントがぼけているのは、夫のせいってことにしておいて。)
見えるだろうか。
いかなご、もとい、鞘の中に、ちらっと見える赤い粒。
おくゆかしく、ちらっとだけ。
おくゆかしいからこそ、気になるもの。

そう。
これは、収穫したばかりの小豆である。
小豆畑に座り込んで、
茶色くなった、からからに乾いた鞘を選び出し、収穫したものである。

人生初めての体験である。
だいたい、小豆畑を見たのも、初めてである。

びっくりした。
いやあ、びっくりした。

小豆って、こんな風にできるんや~。
こんな風に収穫するんや~。
そして、何より、小豆ってこんなに美しいんや~。

いかなごにまちがわれるような色の鞘の中から、ちらっと見えるその色の美しいこと。
とても深みのある赤色。
そして、どことなく上品。
おまけに、艶っぽくもある。
マットなのに、艶感があるのだ。
柔らかい布で、念入りに磨かれたかのような艶。
うっ、美しい。
もう、その一言につきる。

時々、はじけた鞘からこぼれ落ちた小豆を地面に見つけると、あわてて拾い上げてしまう。
ごめんなさい。
こんな美しいものを、落としてしまって。
思わず、そうつぶやいてしまう。(ほんまには、つぶやいてません。)
それほどの美しさである。

だって、そこだけ、輝いてるんやもん。
高貴な光を発してるんやもん。

だからこそ、すぐに見つけられる。

もう一度、言う。
うっ、美しい。
美しいのである。


わたしたちに、こんな貴重な体験をさせて下さったのは、とある和菓子屋さんのご夫婦だった。
大津市にある、昔ながらの商店街の中のその和菓子屋さんは、地産地消を大切にしておられ、小豆も、畑での栽培から取り組まれている。

店頭でも、お菓子を味わうことができるので、夫とその和菓子屋さんを訪れたのは、数か月前のこと。

あんこ好きの私たちなので、和菓子屋さんに行くのは、最上級の楽しみ。

その上、このお店のメニューが、これまた魅力的なのである。
どれにしたらいいのか、決めきれない。

他のお客さんの食べているものを、盗み見しながら、参考にする。

かなりのご年配のご婦人が、かき氷を食べておられる。
寒くないのか?
でも、バターナッツかぼちゃのソースがかかったかき氷なんてあったら、そりゃ、食べてみたいわな。

一人で、来られている、50代後半くらいのおじさまは、もう食べ終わり、支払いを始めていたが、そのテーブルには、食器が3組。
どうやら、3種類も食べはったようや。
3種類か・・・・
空いた食器を確認する。
なるほど~。その組み合わせか。そうきたか~。
でも、3種類も無理やなあ。

そんなこんなしながらも、意を決して、注文をお願いする。
あんこをしっかり味わいたいので、やっぱり、ここは、
「天然寒天 ほうじ茶蜜 高島大納言小豆」
やな。

夫は、ぎりぎりまで、メニュー表をにらみながら、
「水餅パフェで。」
と。
うわあ。何から何まで、味わおうとしてるんやな。
あんこも、水餅も、フルーツも、アイスも。
おいおい。そうきたんか。
まあ、その気持ちがわからんわけでもない。
「そして。」
まだ、夫は、話し続けている。
「わらび餅も。」

えっ?
2つも注文したん?
あんなに悩んで、1つにしたのに。
なに?
それは、ルール違反ではないのか。

そう、夫に伝えると、
小さくため息をつきながら、
「あんな、そんなん、失礼やろ。
こんなに、美味しいものが並んでいるのに、たった一つに決めるなんて。
だいたい、2つでも、苦しくてしょうがないのに。
お店に対して、失礼があってはあかんやろ。」
と、慇懃に答える。

なんなんやろうか。
この独自理論は。
いつものこととはいえ、心の中で、夫が仕事に行っている平日に、一人でこっそり食べにこようと、心に誓うことで、むりやり納得する。ことにする。

まあ、そんなこんながありつつも、いただいたお菓子たちは、とても美味しかった。
器も素敵だった。
盛り付けも、美しかった。
接客も、心がこもっていた。

隣の年配のご婦人がバターナッツかぼちゃのかき氷を食べ進めていると、
「そろそろ、温かいお茶をお持ちしましょうか。」
と、声をかけておられた。
かき氷は、残り半分弱。
絶妙な、タイミングである。
かき氷は、どうしたって、身体が冷えてくる。
ここで、温かいお茶をはさむのは、最高以外の何ものでもない。
これで、また、残りの半分弱を、美味しく食べることができるのである。
わかっておられる。

と、そんな優しい場面を見てしまったので、お忙しいところを申し訳ないと思いつつも、お声かけさせていただいた。

「あの~。小豆の栽培も、ご自分たちでされているそうで・・・。」
と、そんな旨が書かれた紙を指さしてみる。

「はい。そうなんですよ。高島の方でね。
あっ、よかったら、ご一緒にいかがですか。収穫の時期になったら、一緒に収穫しませんか。どの日に収穫するかは、店主次第なんですけどね~~~。」

と、お盆を手に持ったまま、穏やかな口調で答えて下さる。
かなり忙しそうなのに、この穏やかさをキープできているあたりに、只者ではないものを感じる。

が、それにしても、びっくりである。

お店での滞在中に、感動ポイントはいくつもあったけど、こんな何者かもわからない私たちを、気いよく誘ってくださるなんて。
私たちのことといえば、何やら、幸せそうに和菓子を食べとるなあくらいしか、情報はないばず。
あっ、メニューを決めるのに、やたらと真剣だとか、注文した後に、その内容で、なにやら揉めていたっていうのも、情報のひとつかもしれんけど。
とにかく、私たちを信用してもよい情報は、何もないはず。

もしかしたら、私たちが、小豆畑の場所を知ったら、小豆をこっそり夜中に盗ってしまうかもしれないとは、思わないのか。

もしかしたら、私たちの正体は、ライバル和菓子やで、企業秘密を盗もうとしているのではないかとは、思わないのか。

もしかしたら、とんでもないぽんこつの私たちが、収穫する時に、大事な小豆をだめにしてしまうかもしれないなんて、思わないのか。

えっ、え~~~である。

もう、その心の広さに、感動しきりである。
(私が、人一倍、疑り深い面があるのは認めるけども。)


そんな経過があっての、収穫体験の実現化だったのだ。

気持ちよく、体験を希望する私たちを受け入れて下さり、私たち以外にも、子どもたちや、学生さんや、いろんなつながりのある人々が、たくさん手伝いに来られているらしい。
私たちが体験させていただいた日も、子どもたちやその親御さんが、何人もお手伝いに来ていて、
虫を追いかけながら、
ジュースを飲みながら、
すぐそばを走るJRを見ながら、
おっちゃんおばちゃんの話し相手をしながら、
それぞれに、収穫作業に携わっていた。

小豆の収穫は、なかなかに単調な作業なので、そんな作業をする中に、
子どもたちの声が響き渡るのは、とっても心が和む。
穏やかな気持ちのまま、作業を続けさせてくれる。

たとえ、
「おしっこ~~~。」
「おなかへった~~~。」
「ジュース飲みたい~~。」
「あっかんべ~~。」
「クソが~~~~。」
で、あってもね。

和菓子屋さんのご夫婦のお人柄が、そんな空気を作り出しているのかもしれない。
自分たちで育てた小豆であんこを作り、和菓子屋さんを営む。
週の半分を農業で、残り半分で和菓子屋さんを営んでおられる。
建物の中に、ずっといるのは、しんどすぎるんだそうだ。
自然の中で、駆け巡っていると、和菓子のアイデアも浮かんでくるらしい。
「体力的には、きつくなってきましたけどなあ。」
とは、おっしゃっていたが、それを続けておられるお二人の、揺るぎのない姿は、とてもかっこいい。

自分たちの生き方は、これがいいですねん。

そんな声が、聞こえる気がした。


退職してから、いつまでも、"いじいじ” ”うじうじ” している私は、その揺るぎのなさを、自分たちで見つけ出しおられることに、心が揺らされまくる。
そうやん。
自分で、見出していかなあかんやん。
自分でするしかないやん。


聞くと、店主さんは、わたしと同じ年齢だった。
こんな同級生がいるなんて、なんだか、嬉しくなってくる。
地域の食材を大事にされていることを、声高に語られるわけでもない。
でも、バターナッツかぼちゃも、もちろん地産野菜である。
そのほかの、果物も、地産のものを、さりげなく取り入れておられる。
そんな自然体な感じが、こちらの気負いを和らげてくれる。
ご夫婦そろって、なにかと気を配って下さり、私たちの話にも興味を持って耳を傾けて下さる。
子どもたちにも、とっても懐かれておられる。
子どもたちが、つかず離れず、ご夫婦の周りに絶えずいる景色は、映画のワンシーンみたいやった。


収穫した小豆は、天日干しをして、食べられるようになるまで、また、ていねいな時間がかけられる。

そして、その小豆が食べられるようになるころには、新小豆のおぜんざいが登場するらしい。
新そばというのはきいたことがあるけど、新小豆とは初めて聞くひびきである。
もう今から楽しみで仕方ない。



そのころまでには、もう少し、もう少しだけ、わたしの揺らぎが減ってたらいいねんけどなあ。




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