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マヨイガ、桑田佳祐

 中二の時、周りの友達らが急にアルフィーを聴き始めた。
 どうしてアルフィーなのかと思って、そのうちの一人からカセットテープを借りてみたが、自分の好みとは違うようだった。
 それで自分は、彼らに対抗してサザンオールスターズを聴くことに決めた。ちょうど『ミスブランニューデイ』とか『Bye Bye My Love』が流行っていた頃である。

 聴くといっても、中学生の小遣いでレコード(当時)なんてそうそう買えるものではない。まずはFMでサザンの曲が流れるたびに録音していった。
 しかしいつ流れるかわからないものを一曲ずつ集めていくようでは、甚だ効率が悪い。町内に一軒だけ貸しレコード屋があるという噂を聞いたから、それを探すことにした。
「君、『きくせ』と云う貸しレコード屋が町内にあるそうなんだが、知らないか?」
 例のアルフィーファンに訊ねても、誰も知らないと云う。他の級友に訊いても、「なんか、あるらしいね」ぐらいの情報しか返ってこない。
 少なくとも自分の活動範囲にないのは間違いないから、町内でもあんまり馴染のない地域へ適当に行ってみることにした。

 町役場の辺りにあるんじゃないかと適当に当たりをつけ、自転車で行くと、バス停のわきに何だかそれっぽい店があるのを見つけた。
 看板は出ておらず、見た感じは田舎の家電屋みたいな按配だが、入口に『ランボー2』のポスターが貼ってある。
 入ってみたら、果たして『きくせ』であった。
 何の手がかりもなく一発で辿り着くなんて、何だか不思議な縁を今は感じるけれど、あの時分には「あった」「よかった」「すごい」と思うばかりであった。

 狭い店内にぎっしりレコードが置いてあった。一部の棚には、当時出始めだったCDもある。
 早速会員になって、サザンオールスターズの『人気者で行こう』を借りて帰った。
 それからしばらく『きくせ』に通ったが、翌年になると家の近くに別の貸しレコード屋『ジョイ』ができたから、そちらでも会員になった。
『ジョイ』では、会員証をパウチするのに店主がアイロンを使っていた。アイロンでできるのか、と感心したのを覚えている。店主は何だか桑田佳祐に似ているようだった。
 そうして『きくせ』へは、じきに行かなくなった。

 今は、帰省の行き帰りに車で『きくせ』の前を通る。
 店はとうにやめてしまったけれど、建物はそのまま残っていて、見るたびに何だか不思議な心持ちがする。

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