車を出す（2023/04/18）

　夕方の商談まで少しあったから、近くでYou Tubeを見て時間を潰した。
　ちょうどいい頃合いになって、さぁ行こうかと思ったところへネルソン氏から電話が入った。

「君、今は社内かい？」
「いや、W社の前だよ」
「これから帰るのだろう？」
「これから商談だよ」
「なんだ、そうなのかい。困ったな」
　事情も話さず他人の状況を一方的に聞いて困る法はない。勝手に困れと思ったが、念のため「全体、何をそんなに困っているのだね？」と訊いておいた。

「ついさっき社長から電話があってね、『あと1時間ぐらいで帰社するから、工場から車を出しておいてくれ』と言われたのだよ」
「出せばいいだろう」
「ところが僕もトミーも帰社するのにあと1時間半はかかりそうなのだよ。だから百さんに出してもらおうと思ったのさ」
「自分が乗って帰る車だろう？　自分で出せって言っておきたまえよ。社員は使用人じゃないのだからね」
「まったくそうだね。そうしよう」
「きっとそうしたまえよ。全体、彼は公私混同し過ぎだよ。ただし、俺がそう言ったなんて言っちゃいけないぜ」
「とりあえず、早く帰社した方が出しとくことにしようじゃないか」

　商談を終えて帰社したら、社長もネルソン氏もトミーもまだ戻らないが車は既に出してあった。誰が出したものか、ついにわからなかった。