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廊下と行列
部屋から渡り廊下に出ると、外はもう暗かった。
曲がりくねっていて先が見えない。随分長い廊下らしい。板張りで、処々に柱があり、屋根がついている。壁はないから外がそのまま見える。
両側は竹林のようだけれど何だか立体感がなく、のっぺりした感じで、乳白色のアクリル板に竹林の写真を印刷して裏から照らしているように見えた。色も薄い。光に灼けたのかも知れない。昔、バスセンターで同じ仕組みの看板を見たのを思い出した。あの看板は、鳥居の前で鬼の面をつけて踊る人の写真だったように思う。
ずっと歩いて行くと、先に行列が見えた。ようやく着いたらしいと、ほっとして最後尾に並んだ。
しばらく並んでいたら先頭からおばさんの声が聞こえた。
「やっと回ってきたわ。長かったわぁ。ほいで、どっちに行ったらええんね?」
見ると先頭まではもうすぐの所まで来ていた。廊下はそこでT字になっていて、制服を着た男が二人いる。右に行け左に行けと指示しているらしい。
おばさんは男に云われて右へ行った。その先は竹藪の陰になっていてもう見えない。
次は白髪の爺さんの番だった。
「じきにもう一人、孫が生まれることになってるんだけれどね。息子が結婚するのが遅かったものだからねぇ」と話して、爺さんも右へ行った。
これはどうも、並んでいたらやばいやつのように思えてきた。
振り返ると、ついさっきまで自分が最後尾だったのに、随分人が増えている。どこまで続いているか、もう見えないぐらい並んでいた。
自分は「どけ」など悪態をつきながら、その人たちを掻き分けて引き返した。押し退けても誰も怒るでもなく、存外スムーズに戻れたのが拍子抜けだった。
もしも制服の人が捕まえに来たら叩きのめすつもりでいたけれど、誰も追っては来なかった。
廊下の角を何度か折れて、ようやく行列が見えなくなった。
最後尾から走って息が切れたから、角に隠れて少し落ち着けて、歩いて部屋に戻ると、三谷が何だかヘラヘラ笑っている。
「何だ、君、戻ったのかい」
こいつ、と胸倉を掴んだら、中野と宮井が止めに入って引き離された。
三谷はやっぱりヘラヘラ笑っていた。
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。