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蛇と魂

 中学校三年生の時、先生に云われて校庭の傍にあるバレーコートの草刈り・草むしりをやった。
 バレー部でもないのにどうしてそんなことをさせられたか、もう判然しないけれど、三年生全員がどこかの掃除を割り当てられて、たまたま自分がバレーコートのグループに入ったものだったろうと思う。

 数人でだらだらやっていたら、一人が突然「おわ!」と大声をした。
「蛇じゃ!」
 見ると確かに蛇がいた。ちょうど草を刈ったところに潜んでいたらしい。
「おぉ!」
「蛇じゃ!」
 蛇も驚いたようで、コートを横切るように逃げて行く。
 それを誰かが追いかけて、脇で足をドンと踏み鳴らした。すると蛇はまた驚いて、別の方向へ逃げる。
 面白がって今度は阿川がドンとやったら、蛇は阿川の靴に噛みついた。
「わぁ〜〜」
 阿川は何だか情けない声をして、足を上げて振り落とそうとした。蛇は余程しっかり噛み付いたようで、しばらくぶら下がってくねっていたが、じきに落ちて茂みへ逃げた。
 阿川は魂が抜けたような顔をしながら、それを見送った。
「お前、何しよ〜んなら(君は何をしているのだ? の意)」と、みんなでゲラゲラ笑っていると、先生がやって来て「おい、お前らさぼるな」と言った。
 それで自分たちは今しがた起きたことを説明し、こんな危ない仕事は到底できませんと訴えた。
 先生はしかつめらしい顔で頷きながら聞いていたが、「まぁ、気を付けながらやれ」と言い残して、よそへ行ってしまった。
 その頃には阿川も魂を取り戻したようだった。

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