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吸殻、形見、猫(2023/02/05の日記)

 6時に起きて7時に知事選の投票へ行く。
 候補者全員、なんだかピンとこない。灰皿の中で多少なり長い吸殻を選ぶ印象が否めなかった。

 それから妻子は出かけた。
 自分は少しうたた寝した後で洗濯物を干し、昼にスパゲッティーを茹でた。
 塩とコンソメで茹でた。茹で汁を丹念に乳化させてペペロンチーノを作ってみたら自分史上最高の一品になった。
 あんまり美味かったものだから、もう今日という日はこれで満足だよと思った。

 F時計店に祖父の形見の腕時計を持って行った。8時間で5分も進むようになっていたのを手元不如意でしばらくそのままにしていたのである。
 1週間ぐらい預けることになるかと思っていたが、その場で調整してくれた。さすが時計職人の店だ。しかも無料で見てくれたので逆に申し訳ない気がした。

 天気が良かったのでベランダでうさぎを散歩させながらコーヒーを飲んだ。うさぎは自由に跳び回り、ちょいちょい足元に寄ってくる。いきなり死角から触るとびっくりするが、見えるように手を伸ばしてやるとおとなしく撫でられている。また少し仲良くなった気がする。
 牛とマダリストを思い出した。

 19の頃、学生寮に住んでいた。学校の寮ではなく地主が経営していたやつで、雰囲気としては村上春樹の『ノルウェイの森』で主人公が住んでいたのにやや近い。
 この寮に腹が大きい猫が来ていた。寮母さんに隠れて餌をやっていたらすっかり懐いた。間もなく猫は2匹の仔猫を連れてきた。2匹とも最初からミィミィ云って擦り寄ってくる。こんなに動物に懐かれたのは初めてだったから、ちょっと面食らった。

 1匹はどこかへ拾われたのか、じきに見なくなった。もう1匹はその後もずっとやってきた。白黒のブチだったから "牛" と名付けた。
 牛は、毎日部屋の前に来てはニャァと鳴く。そうしてキャットフードを食って、一休みして散歩に戻るのである。

 翌年、母猫が今度は4匹の仔猫を産んだ。4匹ともトラ猫で、ちょっとずつ色が違っていた。3匹はやはりどこかに拾われたらしく見かけなくなった。毛色がマダラであんまり見た目のよくないのが1匹だけ、ずっと部屋に来た。"マダリスト" と名付けた。

 マダリストも毎日のようにやって来たが、そのうちに自分は寮からワンルームマンションへ引っ越してしまった。
 なお、牛はいつの間にか現れなくなっていた。

 知事選は結局現職が当選確実らしい。長いか短いかよくわからない吸殻だと思った。

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