ヘドロ原人
昼飯を食いに入った喫茶店で、隣席の老人が「おぅっふ!!!」と怒鳴り出したからビクッとした。どうやらくしゃみだったらしい。
老人はその後も執拗に「おぅっふ!!!」を繰り返し、そのたびにこちらは驚いた。
老人の向かいには夫人も座って珈琲を飲んでいる。現役を退いて、夫婦でのんびり過ごしているところなのだろう。そういう老後には大いに憧れるけれど、それとこれとは別の話である。他人が平和に食事しているところを、いきなり「おぅっふ!!!」と驚かす法はない。
全体、くしゃみをするのに一々大声を出さなくたっていいはずだ。黙って静かにやるのだったら、こっちだって何も驚かない。
とはいえ自分は、見知らぬ人に向かってそう云ってやれるほどの剛の者ではない。それで、うるさいなぁと思いながらも丹田に力を入れ、遠くを眺めて気を紛らわせていた。
そのうちにようやく静かになったから落ち着いたかと思ったら、老人は口から緑のヘドロを垂らし始めた。
あっと思って夫人を見ると、こちらは褐色のヘドロを吐き垂らしていた。
まさか有名なヘドロ原人であるとは思いもよらなかったので、また驚いた。
よかったらコーヒーを奢ってください。ブレンドでいいです。