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百卑呂シ随筆

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#私のコーヒー時間

珈琲と天ぷら

 時折、車で出勤中に信号待ちでうとうとしてしまい、後ろからクラクションを鳴らされることがある。びっくりするしそもそも危ないから、そういう時はコンビニに寄ってコーヒーを飲む。  コンビニの人には悪いけれど、あのコーヒーが美味いとはあんまり思わない。冷静に味わってみると全然コーヒーの味ではないような気もする。  それでもなんとなくコーヒーを飲んだ心持ちになるのは、茶色くて苦い液体を飲むと「コーヒーを飲んだ」と認識するシステムがこちらの脳内に出来上がっているせいだろう。  だからコ

ヘドロ原人

 昼飯を食いに入った喫茶店で、隣席の老人が「おぅっふ!!!」と怒鳴り出したからビクッとした。どうやらくしゃみだったらしい。  老人はその後も執拗に「おぅっふ!!!」を繰り返し、そのたびにこちらは驚いた。  老人の向かいには夫人も座って珈琲を飲んでいる。現役を退いて、夫婦でのんびり過ごしているところなのだろう。そういう老後には大いに憧れるけれど、それとこれとは別の話である。他人が平和に食事しているところを、いきなり「おぅっふ!!!」と驚かす法はない。  全体、くしゃみをするのに

珈琲、嫌な感じの話

 小2の時分にはいつも、学校から帰るとすぐにイカサキ君の家へ遊びに行った。そうしてウルトラマンごっこをしたりプロレスごっこをしたり絵を描いたりした。おやつの時間には食卓へ招かれてお菓子と珈琲をいただいた。  小学生に珈琲というと今では何だか奇異に感じるけれど、あの頃は別段珍しくもなかったと思う。  自分が初めて珈琲を飲んだのがいくつの時だったかは覚えてないけれど、イカサキ家で出された時に「うちと一緒だ」と思ったのは覚えているから、きっと小1ぐらいから飲んでいたろう。 ※

暗示にかかる人、甘い珈琲

 先日受けた健康診断で、胃が荒れているとの指摘を受けた。 「症状あるでしょう?」と医師が云うから、「別段ないようです」と答えたら、「じゃぁ、こういう胃なのかな」と納得された。医師は梶原一騎に似ていた。  それでおしまいならばいいけれど、きっと後から再検査を受けなさいという書面が来るに相違ない。  再検査の中でも、胃の内視鏡だけは嫌だ。前に受けた時、鼻から通せば苦しくないと職場の小澤さんが教えてくれたから、病院にそう云って鼻からやってもらったら、普通に苦しくて随分がっかりした。

珈琲と幻

 派遣屋だった時分に、ある有名メーカーの巨大工場へ全国から人を集めて送り込んでいた。  ある時、まとまった人数の契約を終了することになったから、寮として使っているアパート数軒を営業所のメンバー数人で掃除した。  朝から全員で1軒ずつ片付けていって、2軒終わったところで少し休憩しようとなって、向かいにあった喫茶店へ入った。  薄暗くて小汚い店だった。昭和の刑事ドラマで聴き込みを受けてそうな感じのママさんが気怠げに「はい、いらっしゃい」と云ってきた。  自分たちの他に客はいない

珈琲と人生の伏線

 18の時、郷里から大学受験で大阪へ行ったついでに、音楽雑誌で見かける大きな楽器店へ行ってみることにした。その店のオリジナル商品であるギター用カスタマイズシールを買うつもりだった。  スマホなどない時代で、予め雑誌で住所と地図を調べて行った。ところが店があるはずの場所にはオフィスビルがあるばかりで、楽器店らしきものは見当たらない。看板もないものだから、小一時間辺りをうろうろしたけれど一向見つからない。このままでは埒が開かない。ダメ元でオフィスビルに入ってみることにした。