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新井の見舞いで、呉市の総合病院へ行った。彼には高校時代に随分世話になった。まさかこの年で病を得るとは思いもしなかったから、土居から聞いた時には驚いた。 驚いたと云えば、高校時代の新井は見るからに悪そうな面構えだったのに、土居から見せられた写真は何だか真っ当な男前になっていた。新井だと云われたからそんなふうに見えたので、黙って見せられたら知らない人だと思ったろう。事によると土居のやつが別人の写真を使って担ごうとしているのではないか知らとも思われたが、そんな事をしたって何の得
大きな駅ビルではないけれど、電車の乗り場がわからない。それで先刻からエスカレーターで上がったり下がったりしながら、ビルの中を歩き回っている。 三階は飲食フロアらしい。だからといって改札がないとも限らない。それで端から端まで歩いてみるが、やっぱり改札は見当たらない。 四階はフロア丸ごと一つの店になっている。炉端焼きの店らしいが、具合の悪いことにエスカレーターの真ん前が店舗入口で、さっきからエスカレーターで上がるたびに「いらっしゃいませー!」と元気に言われる。それを三回繰
大学の一年目は学生寮で暮らした。 地主が個人でやっていた寮で、個室だったし、色んな学校の生徒が集まっていたから面倒くさい上下関係もない。おかげで存外居心地は良かった。 ただ、日曜・祝日は風呂を沸かしてくれないのは不便だった。それで日曜の夕方には自転車で銭湯へ行っていたのだけれど、この銭湯がじきに閉店してしまった。 近くには他に銭湯がなかったから、電車に乗って、三駅離れた大学前の銭湯『大学温泉』へ行き始めた。 大学温泉はそれまで行っていた所よりも小さくて、何だか淋しい
何の集まりだったかもうわからないのだけれど、昔、山田さん他数人と電車に乗って出かけた。 切符を買う際、自分が一番前に並んでいたので、「後で払ってくれよ」と言いながら全員のを立て替えた。よく知らない人もいたので少し不安だったのを覚えている。結局、回収できたと思う。 電車を下りたら構内の改札を出てすぐの所にマグロ料理屋があった。 その店へみんながぞろぞろ入るのに自分もついて行った。そうして店内を通り抜けて、反対側の出入口から外へ出たが、「店内は通路ではありません」と貼り
通勤ルートにしている、例の不可解な黄色い回転灯の一帯に、古い廃屋が一軒ある。 江戸時代から残っているような立派な屋敷だが、車からちらっと見るだけでも随分荒れているのがわかる。 塀の一部が崩れていて、不届者が勝手に入らないようロープを張って「立入禁止」の札が提げてある。 元の住人はこの辺りの有力者だったに違いない。郊外の閑静な地域で、別段不便もなさそうなのに、全体どうしてこんな立派な家屋敷を打ち捨てたものだろうか。 そんなことを考え出したら、自分の脳内に異様な光景が浮
たまにいつものルートを外れて、狭い小路を通って出勤する。 小路をしばらく行くと、腰高の支柱に黄色い回転灯が付いたのが五メートルぐらいの間隔で両サイドに並んだ区域がある。 一度回転灯を数えてみたら片側に二十個あった。だからその区域は百メートルぐらいある計算になる。 一体あの回転灯は何だろうかと思いながら過ごしていたけれど、たまたま同じ職場の八田君がその辺りに住んでいると知って、ある時その話を振ってみた。 「ああ、あの道ですか。回転灯がいっぱいあるでしょ?」 「そうだね