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百卑呂シ随筆

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2023年5月の記事一覧

傘泥棒

 先日、仕事を終えて帰ろうとすると傘がなくなっていた。  間違えて持って行かれないようにいつも傘立ての外に置くから、そこにないということは誰かが意図的に持って行ったということだ。  ビニール傘なら使い捨てアイテム的な面もあるからまだ諦めもつくが、なくなったのは布の傘である。悪意を感じずにはおられない。  これだから三流零細企業は困るのだよと呆れながら、総務のフグ田さんに言って「傘の取り違えが発生している。心当たりのある者は速やかに返したまえよ」というメールを全社配信してもらっ

車窓から(その6) 〜フクロウ翁・故郷

 相生駅からの乗客は予想外に多かった。まさかそんなこととは思いもせずに油断していたものだからあれよあれよという間に席を取られ、岡山駅まで1時間ばかり立ち乗りすることになった。  昼飯にするつもりだったテリヤキバーガーもランチパック(ピーナッツ)もこれでは手をつけられたものではない。結局、岡山で乗換電車を待ちながら食った。昼飯というよりおやつに近い刻限だった。滋賀県で買ったパンを岡山で食う男、と思った。 ※  在来線で大阪~広島間は大学時代に何度か行き来している。当時の乗

車窓から(その5) 〜戦い、流血坊主

草津で睨み合う 野洲という駅は初めてだったが、その次の停車駅が草津だったのには大いにがっかりした。  草津には昔、しばらく滞在していた。  パスタ屋の店長を辞めた後、工場へ人を派遣する会社に派遣する側で入社した。大阪の営業所に配属されたが、最初の1カ月ほどは「現場研修」と称して、草津にある取引先の工場に入れられた。そこで派遣スタッフに混じって、エアコンの室外機を作っていたのである。  工場と派遣社員寮は少し距離があったから送迎バスが出ていたのだけれど、どういうわけかその運

車窓から(その4) 〜トマトを食う人〜

 米原を出ると20分ほどで野洲駅に着く。ここでまたしても乗り換えなので落ち着かない。ただし、乗り換える列車の発車時刻まで16分の余裕がある。時刻は午前11時前なので、昼に食べるものを購入しておくならここが一番都合がいい。  駅弁があれば好都合だけれども、あいにく小さな駅だからそれは望めない。キヨスクに行っても果たしてパンや菓子ばかりで弁当はなかった。  仕方がないからテリヤキバーガーとランチパック(ピーナッツ)を買っておいた。時々仕事帰りにコンビニで間食する際に買うのと同じ

車窓から(その3) 〜日本語の筆記・田舎の風景〜

日本語の筆記に関する考察 列車が動き出すと早速ペンとノートを取り出して「立ち食い屋で焦った」的なことを書こうとしたが、右に左に揺れるおかげでどうにも書きづらい。新幹線のように簡易なテーブルでもあれば多少の揺れなど問題ないが在来線ではそうもいかない。  もっとも、書きにくいのは揺れるせいばかりではない。  元来自分は左利きで、ペンを使うのも箸を使うのもうんこの後でおしりを拭くのも全て左手だった。腕時計は右手に装着するということをアイデンティティとして生きてきた。  それが近頃

車窓から(その2) 〜バッテリー・渋谷の蕎麦・裕次郎〜

バッテリー 休日前夜はいつも夜更かしをするのが長年の習慣だが、寝過ごすようなことがあると厄介だから12月30日の夜は比較的速やかに就寝した。  そうして翌朝は午前8時に「ふふーん」と言って出立した。18時頃には実家に到着する段取りだ。  幾分わくわくしながら最寄駅に到着すると、まもなく電車がやってきた。こいつに乗ってまずは名古屋まで行く。長すぎず短すぎずの絶妙な待ち時間だったのでおおいに気を良くしていると、じきにiPhoneの充電用バッテリーを忘れてきたことに気が付いた。

車窓から 〜旅立ちの前に〜

(過去にやっていたブログ記事のリライトです) ※  ほとんど旅行ということをしないままこの年まで生きてきたが、2カ月ばかり前から妙に旅をしたいと思うようになった。行き先は国内でいいし、それほど遠くでなくてもいい。どこか知らない土地へ一人でぶらりと出かけていって、見たもの食ったもの思ったことなどをノートに書きつけておきたいなぁと思う。  それで、これまで行ったことのない県の中から何箇所かピックアップして費用や宿泊先を調べてみたが、そもそもまとまった休みがないから実現の当て