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車窓から(その3) 〜日本語の筆記・田舎の風景〜

日本語の筆記に関する考察

 列車が動き出すと早速ペンとノートを取り出して「立ち食い屋で焦った」的なことを書こうとしたが、右に左に揺れるおかげでどうにも書きづらい。新幹線のように簡易なテーブルでもあれば多少の揺れなど問題ないが在来線ではそうもいかない。
 もっとも、書きにくいのは揺れるせいばかりではない。

 元来自分は左利きで、ペンを使うのも箸を使うのもうんこの後でおしりを拭くのも全て左手だった。腕時計は右手に装着するということをアイデンティティとして生きてきた。
 それが近頃になって万年筆を使い始めたら、どうも左手だと扱いづらい。
 よくよく考えてみれば、日本の文字は右手で書くようにできているのだから、それを左手で書こうとして無理が生じるのは当たり前だ。
 これをいい機会と捉え、この際右手で字を書く練習をしようと考えてここ3カ月ばかりずっとその練習に励んできた。そうしてようやく日常的に使えるレベルには達したが、こんなに揺れる状況下での安定筆記にまでは至っていないのである。

 その点、やはりiPhoneであれば揺れたからといって文字が乱れることもない。さすがはデジタルだ。そう思ってiPhoneを両の手のひらで包み込んだが、既に消費した電力は回復しない。

 結局、誰に見せるわけでもないのだからミミズののたくった字を書いて我慢しておくことにした。
 全体、利き手で書いても悪筆なのだから、いまさら巧拙にこだわるのもおかしな話だろう。

田舎の風景

 そうこうするうち、米原に到着した。

 米原から新快速姫路行きに乗り換える。
 乗り換える列車はすでにホームに待機しているのだけれども、車両の扉が閉まったままなのでじっと開くのを待っていたら、後ろから来た人がボタンを押して開けてくれた。いささか決まりが悪かった。
 そういえば前に仕事で境港へ行ったときにもこういうボタンを押して開けたと思い出したが、後の祭りだ。

 米原までは趣のある村落的風景だったのが、米原を出るとただの中途半端な田舎町といった感じになった。おかげで外を眺めても面白くない。

 ただ、それを面白くないというのはよそ者の勝手な言い分で、住人にしてみれば「うるせぇよクソ人間」といったところだろう。あんまりそういうことを言ったりネットに書き込むものではない。

to be continued...

初出:2010年1月3日『論貪日記』


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