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車窓から(その4) 〜トマトを食う人〜

 米原を出ると20分ほどで野洲駅に着く。ここでまたしても乗り換えなので落ち着かない。ただし、乗り換える列車の発車時刻まで16分の余裕がある。時刻は午前11時前なので、昼に食べるものを購入しておくならここが一番都合がいい。

 駅弁があれば好都合だけれども、あいにく小さな駅だからそれは望めない。キヨスクに行っても果たしてパンや菓子ばかりで弁当はなかった。
 仕方がないからテリヤキバーガーとランチパック(ピーナッツ)を買っておいた。時々仕事帰りにコンビニで間食する際に買うのと同じ物で、まったく旅情のかけらもないが、そんなことをいっても始まらない。
 ホームに戻るとまもなく次の列車が来た。

 首尾よく席を確保し、正午を回ったら食事にしようと思ってほくそ笑んでいるうちにだんだん車内が混んできた。そうして自分の隣に若い女が座った。

 高校時代、学校帰りのバスで隣に知らない爺さんが座った。爺さんはバスが動き始めるとカバンの中からもぞもぞとトマトを取り出し、むしゃむしゃ食い始めた。
 こんな所でトマトを食って、齧った弾みに汁でも飛んできたらかなわない。イヤだなぁと思ってチラチラ見ていたら老人は何かを勘違いしたらしく、「あんたも食うか?」と、もう一つトマトを出してきた。ますますイヤな気分になった。

 そういうこともあったから、見知らぬ人の真横でテリヤキバーガーを取り出してもそもそ食うのはいささか気がひける。何しろてりやきソースが手についたら、ハンカチやティッシュを出すのにまたもそもそしなければならない。その間、ソースまみれの包装紙が隣席の足元などに落ちたらいよいよ決まりが悪い。
 先にランチパックから手を着けることもできなくはないが、自分の中でランチパックはデザートの位置付けだから極力それはしたくない。あくまでメインはテリヤキバーガーなのである。

 結局隣の女性が下車するまで食事はお預けとすることを決意して、ぐっと丹田に力をこめていると、女は次の草津で下りた。
 ところが、ほっとしたのもつかの間、今度はトレンチコートの男が入れ替わりに着座した。

 どうにも怪しい男だ。そもそもトレンチコートの時点でおかしい。こんなものを着るのはハンフリー・ボガートか変態だが、どう見てもボガートではないから変態に相違ない。
 そうしてこの変態は、乗ってくるなりオノレの膝の上で頭を抱えて固まってしまった。

 自分は、この男が突如としてゲロを吐くなどの不測の事態に備え、足元に置いていたカバンを頭上の網棚に移した。

 その後も男は頭を抱え続け、結局次の乗換駅である相生まで約2時間、そのまま微動だにしなかった。

to be continued...
初出:2010年1月3日『論貪日記』


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