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百卑呂シ言行録

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日常を切り出して再構築したもの。
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#創作大賞2023

分身(2023/07/13)

 今日は問屋のスミスさんと一緒に隣県の店を回る約束だから、朝から現地へ直行した。  スミスさんは自分の中では “大津さん” になっているから、彼の名前を言う時はいつも意識して脳内で変換する。  初めて会った時は大津だったはずなのに、全体いつから彼はスミスになったんだろうかとネルソン氏に言ったら、「君は何を云っているのかね、スミスさんは初めからスミスさんだったよ。全体、大津さんとは誰なんだい?」と呆れた顔をされた。  それでよくよく頭の中を整理してみたら、大津とは自分の高校時代

深みとリアリティと黒歴史(2023/07/12)

 昼休憩中に、昔の日記の転記作業をした。 ※  3年前からGoogleドキュメントで日記を書いている。月日をタイトルにしたドキュメントを366個作って同じ日付に毎年記入するスタイルだから、去年の今日はどうしていたかが自然にわかる。成長するため云々みたいな説教くさいことでなく、単に面白いからやっている。  面白いの延長で、随分昔に手書きしていた日記も随時こちらへ転記し始めた。  社会に出たばかりの頃のは読み返して面白かった。なるほど、これがああなってこうなるのかと、人の変

リベンジ、呪詛、ベルト(2023/07/11)

 妻が仕事で朝早く出かけた。  時間になったら娘を起こすよう云われていたから、「おい起きろ」と言ってグリグリパンチをしたら寝たまま叩いてきた。以前はキャッキャと喜んでやり返してきたのに、随分つまらないことになった。  出勤時、リベンジのつもりで昨日と同じセブンイレブンに入ったら、今日は順番を抜かされることもなくスムーズに会計を終えられた。昨日の借りを返したようでいい気分だったが、考えてみれば普通に買い物をしただけで別段何も返してはいない。そう思ったらまた気分がどんよりした。

烏帽子親、酒(2023/07/09)

 昨晩、ケイトさんと光太郎君の親子が畑で穫れた野菜を持って来てくれて、遅くまで一緒に飲んだ。  飲みながら、光太郎君が将来結婚する時の話になって、父親がいない(先年亡くなった)ことをケイトさんが気にするから、親父の枠が必要なら結婚式ではわしが父親の席に座ろうと云ったら、皆感心した様子だった。  ただ、云ったはいいが、親族が大勢いるのを差し置いて一友人がそこまで出しゃばるというのはさすがに何だかおかしいようでもある。そもそもまだ具体的な結婚話があるわけでもないのだから、これから

マイペースと悪意、洒落た音楽(2023/07/06)

 定年再雇用者になったオーウェン氏について、彼の直属上司であるクリス・マッコウリー君がネルソン氏の席へ来てぼやき始めた。  マッコウリー君はオーウェン氏に残業をさせないよう、これまで任せていた作業をいくつか引き取ったが、どういうわけかオーウェン氏は定時になっても帰ろうとしないのだという。  これでは単に僕の仕事が増えただけですよ、やることはないはずなのに、一体彼は何をやっているんでしょう? と憤慨する。  それに対してネルソン氏は苦く笑いながら、「どこまでもマイペースな人だ

いい波に乗る(2023/07/04)

 定時の30分前に、出荷担当のオーウェン氏が「お先に失礼します」と退社した。早退にしては随分変な時間だが、元来奇行の目立つ人だから何も訊かずに「おつかれさま」とやっておいた。  後から彼の上司のクリス・マッコウリー君にオーウェンさんはどうしたのかと訊いてみたら、今日は早番だから早上がりなのだと云った。 「出荷部門には早番があるのかい?」 「残業なしで回せるように、今日から始まったんですよ」 「今日から?」 「オーウェンさんが定年で再雇用者になったんで」  昨日、オーウェン

図書館、幼稚園、茄子(2023/07/02)

 晴れていたのでうさぎのケージを洗った。  午後から図書館へ行って、内田百閒全集第四巻の貸出延長手続きをしてもらった。ついでにスージー・クアトロのCDがないかと探してみたが、残念ながらなかった。氷室京介も探したが、BOØWYのベストアルバムしかなかった。市の図書館だから全市民のニーズに対する最大公約数的なラインナップになるのは仕方がないが、もう少し頑張ってもらいたいと思った。  延長してもらった内田百閒全集を読んでいたら百閒の幼稚園時代のエピソードがあって、読みながらこんな

コスパ、失望(2023/06/30)

 昨日から出張で、昨夜は遠方に泊まった。  今日は午前中に商談が一件あった。訪問先の近くに宿を取ったから朝は随分ゆっくりできた。  チェックアウトして訪問先まで歩いて行ったが、約束の刻限までまだ1時間ある。近くにベローチェがあったからそこで時間を潰すことにした。  こんなところにベローチェがあるなら昨日もこっちに来ておけばよかった。昨日はチェックインまで小一時間をコメダで潰したら、コーヒー一つで580円もしたので驚愕した。  全体、自分はコメダのコーヒーを美味いと感じたことは

におい(2023/06/29)

 3時半頃目覚めたら、随分雨が降っていた。雷も鳴っているようだった。  よほど今日の出張は止そうかと思ったけれど、そういうわけにもいかないから渋々出発した。  現地は晴れていた。傘がいらないのはありがたいが、鞄が重いには閉口した。すぐにじっとり汗をかいた。ただしこれは使わないものまで色々持ち歩いているのが原因だから、誰にも文句は云えないだろう。  ただでさえ暑いところへ重い鞄を持って歩くのだからいけない。ものの数分で汗だくになって、不快なにおいが気になりだした。 ※  

背負う(2023/06/28)

 朝目覚めた後、一瞬目を閉じたら30分経過していた。大いに驚いた。高校時代にもこんなことがあったのを思い出した。夜、布団に入って数秒目を閉じたら、朝になっていたのである。 ※  午前中、ウェブでセミナーを受講した。自分の席でイヤホンを着けて聴いていたら、普通にあちこちから色んな用件で話しかけられた。おかげで何も頭に入らず、講師が予想より歳を食っていたことぐらいしか覚えていない。これからは面倒でも会議室へ移動することに決めた。 ※  明日・明後日と出張で、特に明後日は打

秘密の金(2023/06/27)

 午前中、ネルソン氏とトミーと部内ミーティングを行なった。ネルソン氏が存外アグレッシブな案を出して強硬に推して来たからちょっと驚いた。  その案を進めるには自分の担当先で調整が必要だが、上手くいけば随分大きな成果につながる。自分は畜山生太郎(ちくやま・しょうたろう)ではないから、嫌味と皮肉を思う様浴びせかける代わりに、「背に腹は代えられないのだから仕方がない」と言って、ネルソン案を承諾した。  背に腹は代えられない、と今日だけで4回言った。 ※  帰宅すると義父母が来てい

喫煙者(2023/06/26)

 出勤途中、信号待ちで前に停まっている車から、火がついたままの煙草が転がってきた。大きく会社名が書かれた車なのによくやるものだと感心した。  ちょっと気になって後から調べてみたら、「この会社の運転手は運転マナーが最悪だ」というようなコメントがいくつか散見された。大きな会社ではないようだから同一人物か、あるいは一人親方なのかもしれない。  ついでに当該企業のウェブサイトから連絡しておいたが、これはきっと余計なお世話だったろう。 ※  喫煙をやめて久しいが、最初に煙草とライタ

虫を殺す、中2(2023/06/25)

 未明に足がかゆくて目が覚めた。寝室に蚊がいるらしい。  時計を見たら2時半である。我慢できないレベルのかゆさではないし、蚊も満足すればそれ以上の吸血は遠慮するだろうからこのまま寝ていようかと思ったが、どうも段々にかゆさが増してくるようであったから結局起きて殺虫剤を取りに行った。  朝起きたらそこら中に小さな羽虫が死んでいて、随分うんざりした。 ※  午後から妻が出かけ、自分は『内田百閒全集』の続きを読んだ。娘はアニメの録画を観ていた。  何だか知らないが、アイドルが子供

メルヘン夫をやり過ごす(2023/06/24)

 朝食後、床屋へ行くことにした。先月行きそびれていたから頭髪が随分伸びて、破戒僧みたいになっていたのである。  行きつけの床屋はショッピングセンターの中にある。順番を待っている間――コロナ騒動以来、店の外で待たされる――に、メルヘンさんの夫とメルヘン父が目の前を通った。幸いこちらには気付いていないようだったから、こっちも声はかけずにおいた。  帰宅すると妻子は出掛けていたから、ベランダでうさぎを遊ばせながら読書をした。  内田百閒全集の第四巻が面白い。大正〜昭和初期の人々の