へちま人

へちま人

マガジン

  • SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

    学習型スパムAI「ツナミ」がインターネット回線を蹂躙して四半世紀。 事変以前の高速通信網は帯域のほとんど100%を「ツナミ」の流すスパムに埋められた結果、通信速度が極限まで低下。 人類は代替としてイントラネットによる小規模ネットワークを運用していた……

  • 仕事旅日記

    前職の仕事で訪れた日本各地での体験や旅情を、思い出しながらテキストにしたためています。

最近の記事

小春日和の春日部市

春日部といえば、いまやクレヨンしんちゃんの舞台として有名だが、一度だけ仕事で行ったことがある。 春日部といっても、有名な春日部駅ではなく、春日部市内の別の駅だったはずだ。 改札を出ると、いきなり建売住宅がズラっと並んで出迎えてくれる。明らかに東武鉄道の手による人工ベッドタウンといった趣の場所だが、悪い感じはしない。道も綺麗で、よく整備されている。 確か3月だったと思うが、その日は良く晴れて日差しが暖かかった。 住宅街が延々続いており、幹線道路がそばにないせいか、大変静かだ

    • 熱海の茶碗

      時間が止まっているようだ、という表現がある。 今いる場所を言い表すのに、これ以上ピッタリくる言い回しもないだろう。 ぼくは、閉店したスナックにいた。 入り口すぐ右にバーカウンターがあり、その後ろで往時は酒瓶が並んでいたであろうキャビネットが寂しくガラス戸の棚を空けている。 赤い絨毯の上には、ぽつり、ぽつりと段ボールが無造作に置かれており、開けたまま中の包み紙が見えているものもある。 8月の夏日で、外はかんかん照りだったが、店内は嘘のように薄暗い。窓がないせいか、ドアを閉めたら

      • #8 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

        秘密基地に登ると、タカシはLANケーブルに繋がっているタブレットを外した。 受信メールの残り件数は「0」になっている。 「すごい、本当にインターネットが復活したんだ。全部受信できてる」 タカシはタブレットのメールアプリを開いて、内容を確認した。 ほぼ迷惑メールである。 「全然フィルタリングできてないや」 コウタが覗き込んだ。 「これがツナミの正体なんだよな」 「どういうこと?」 いくらスクロールしても、延々とスパムメールが続いている。 「ツナミはそもそもスパムメールのボットな

        • #7 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          「お前ら、やったなあ」 4人がサーバを返しに来ると、野手無線の店主は笑顔で出迎えた。 「小学生でツナミ相手にタイマン張ったのなんて、お前らくらいだろうなあ。とにかく、よかったよ」 店主に挨拶を済ませると、4人は団地の広場に出た。 広場のすみに、電話ボックスが6つ並んだ一角がある。朝の時間だというのに、常にどこかのボックスは使われている。 4人はその横に自転車を停めていた。 晴れているが、冬の朝は寒い。 4人とも息が白い。 「やったな」 自転車の前まで来ると、コウタが拳を出した

        小春日和の春日部市

        マガジン

        • SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」
          8本
        • 仕事旅日記
          17本

        記事

          #6 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          目が覚めると、タカシは床に横臥していた。 昨夜、作業完了とともにそのまま眠ってしまったらしい。横では、ススムとミノルがまだ眠っている。 「おはよう」 コウタは起きていた。一人で学習机の椅子に座りラップトップを眺めている。 「あの後、どうなった?」 「自分で見てみろよ」 タカシはコウタのラップトップを覗き込んだ。 右上の通信速度が「1P(ペタ)bps」になっている。これは、標準的なイントラネットの通信速度だ。 「成功した?」 「ああ。おれたちの用意した『餌』にまんまと引っかかっ

          #6 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          #5 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          ミノルの家の前まで来ると、男はサーバを箱から出して持ち上げた。 「重いぞ。持てるか」 「はい」 ミノルが玄関を開けて道を作り、タカシがサーバを受け取った。 「これにサインして」 男は「レンタル契約書」と書かれたぐしゃぐしゃの紙とペンをミノルに渡してきた。 返却日は翌日、金額は「0」になっている。 ミノルが何か言おうとすると、男は 「お小遣い大事に使えよ。今回はおじさん、ボランティアで協力してやる。次はメモリーカードでも買いにおいで」 と言って去っていった。 タカシが玄関でよろ

          #5 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          #4 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          ミノルの住む団地の1階は商店街になっている。 かつて商店街は閑古鳥が鳴いていたというが、タカシたちには信じられない。 インターネットが利用できなくなり、グローバルな取引が以前より難しくなった結果、地場でのビジネスが盛況になった。商店街はいつも混んでいて、人をかき分けるようにして進んでいかなければならない。 野手無線は、商店街のちょうど中央にある。 白地に黒で大きく「note」と書かれた看板の下は、煌々とLEDがついていた。 「あるかなあ」 ミノルは自分から言い出した割に、少し

          #4 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          #3 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          「うん、今日はミノルの家で泊りがけで勉強会することになったから……大丈夫。また連絡するよ」 タカシは緑色の受話器を置くと、電話ボックスから出てきた。 ツナミが世界を襲った時、携帯電話網はすべてインターネットを前提とした技術に置換された後だった。 ツナミによってインターネットが不通になった後、ネットワークの再構築にかかるコストを嫌った携帯キャリアは軒並み撤退、現在では衛星通信網による高額な携帯電話しか残っていない。 結果、町中いたるところで電話ボックスが復活した。 携帯電話が広

          #3 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          #2 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          「昨日、ネットが不通になったあと警察が来て、うちに原因があるんじゃないかって」 自治体はネットワーク障害が起きると、警察への通報とログの提出を行う。 数年前、事象の重大さから法整備がなされ、いわゆる「インターネット接続防止法」が成立した。以降、イントラネットに属するクライアントで直接インターネットに接続すると刑事罰に問われるようになった。 「心当たりでもあるのか?」 「インターネット用のタブレットを間違えて家のWifiに繋いじゃったんだ。すぐ電源を落としたんだけど」 「マジか

          #2 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          #1 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          学習型スパムAI「ツナミ」がインターネット回線を蹂躙して四半世紀。 事変以前、世界を覆っていた高速通信網は帯域のほとんど100%を「ツナミ」の流すスパムに埋められ、通信速度は極限まで低下。 事実上、インターネットは壊滅した。 「タカシ、コウタ君の家行くなら途中でメール届いてるか見てきて」 「わかった」 母に言われ、タカシは持っていた鞄の中にタブレット端末を放り込んだ。 「行ってきます」 自転車にまたがると、タカシは森深い裏山を目指してペダルをこぎ始めた。 コウタの家にいくと

          #1 : SF小説 インターネット蹂躙AI「ツナミ」

          十二月二十五日 快晴

          クリスマスになった。 この季節になると「キャロリング」を思い出す。 町の教会から有志の人間が数台の車に分乗し、さまざまな地区で聖歌を歌って廻るという催しである。 私が物心ついた時には既に行われており、いつから始まり、そして今もあの町で行われているのかはわからない。 クリスマスの夜、団地の北側の父の部屋の窓から、街灯を囲む大人たちが見える。 楽器はない。彼らはクリスマスソングを数曲ア・カペラで歌ったあと、必ず最後に「メリー・クリスマス」と言い、去っていく。 これが、私にとって

          十二月二十五日 快晴

          十二月二十四日 曇り

          クリスマス・イブである。 今日は、ジャニーズのアイドルグループA.B.C-Zのライブに行ってきた。 ここ数日、コロナの感染拡大をテレビが大きく報じる中で、GO TO TRAVELも含めさまざまな企画やイベントが中止になる様をハラハラする思いで見てきた。 われらがグループのライブは無事敢行されるだろうか。 数日間、それだけが懸案事項だった。 私の場合、クリスマスライブが開催されると決まった時、その応募のために名義を作ったのだが、私名義での応募は全滅であり、フアンとしての船出はほ

          十二月二十四日 曇り

          十二月二十三日 快晴

          昨日持って帰ってきた新PC(XPS13 2020モデル)の設定で格闘している。 途中まで順調だったのだが、どこか違和感を感じる。おかしい。何だろう……と原因を探ってみると、なんとWindows 10のエディションがHOMEではないか! 仕事柄、Proでないと困ることが多い。PCを購入するときに指定していれば+8,000円程度でよいのだが、後からのエディション変更となると方法にもよるがだいたい13,000円以上かかる場合はほとんどだ。 普段、会社でPCを購入する際は法人向けモデ

          十二月二十三日 快晴

          十二月二十二日 快晴

          母からランチに誘われたので、妻と一緒に駅前まで行った。 私の両親は数年前近所に引越してきたので、会おうと思えばこのように簡単に会うことができる。 両親の家で年始に集まる予定もあったのだが、世の状況を鑑みてそれは中止となった。 私の父は長年糖尿病と付き合っており、いわゆる基礎疾患のある状態なので万が一を考えてのことである。 今年は妻の実家へも帰らない。秋頃、妻の祖父が亡くなってしまったので、せめて仏壇を拝みに行きたかったのだが、それも叶わなくなった。 夏の帰省を自粛した判断が悔

          十二月二十二日 快晴

          十二月二十一日 快晴

          冬至らしい。 午前中、ついにヤマダウェブコムで注文したテレビが届いた。 だいぶ待たされたが、とにかく届いてよかった。 我が家には今まで32インチのテレビしかなかったので、43インチのテレビはひたすら大きく感じる。 早速妻がスプラトゥーン2をプレイして、やりやすさを確認していた。この手のゲームは画面が大きくないとやりにくいので、プレイ環境がかなり改善されるかもしれない。(三年前のゲームなのでそこまで頻繁にはやらないだろうが……) 我が家に二台あったテレビのうちの一台は、上の娘が

          十二月二十一日 快晴

          十二月二十日 快晴

          我が町にもサンタが来る!というので、家族で駅前まで行ってきた。 我らがホームタウンは地形の関係からか、年中強風が吹いており、特に冬はひどい。 今日も例に漏れず、木枯らしが吹き荒ぶ中を歩いたのですっかり冷え切ってしまった。 凍える体で商業施設に入ると、暖房の温かい空気と共に、向こうから赤い服を着た恰幅のいい中年が歩いてきた。 サンタだ!と娘と一緒に喜び、その後ろについて歩いている子供たちの列に並んでみた。皆はしゃいでいる。 しかし、なんだか様子おかしい。サンタ、めちゃくちゃテン

          十二月二十日 快晴