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短編集

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短編集⑩

短編集⑩

虹のうた

きみの中身が知りたかった、きみを、構成している成分が、ぼくとおんなじだなんて、ぼくは認めない
かみさまの気紛れに調合したレシピが、情報となり、きみを表す記号になり、また受け継がれてゆくのだろう
月も太陽も見えなくていいから、ぼくを独りにしないで
幼い頃見た夢の続きを、引きちぎって粉々にして、点滴パックに詰めたあの日から、何かが漏れ出して少し痛い気がした 敏感になった痛覚をあやしてきみに

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短編集⑨

短編集⑨

弾けるのうた

燦然たるきらめきを、両の手のひらから零して
きみには勿体無い程のそれを、きみが零した部分を、拾い集める
言語化出来なかった感情を撫ぜて、そっと、意識の先に葬る
言葉に詰まる日常を消化してシャボン玉になったら、ぼくは消えて無くなるのでしょうか
絶え間ない夢を見ているきみは、ぼくのことなどおぼえていない
交じり合うことの無い淋しさがあるのなら、この星以上に美しい場所なんてないと
空の高

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短編集⑧

短編集⑧

日暮のうた

夏から秋へ 曖昧なオレンジは自己否定の匂いを仄めかして
こころが潰れる音がした 指先に集めた蟻をも潰せる圧力で簡単に
愛しているからきみなんて要らなかった
きみが生涯聴くことの無いアーティストのCD
おんなじ頻度で音飛びするわたしの思考も烏に啄まれて砕ける
夢の中では確かに言えたの、そのさよならを
本物のきみを前にしたら音にすらならなかった己の弱さとはりぼての「またね」
明日になった

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短編集⑦

短編集⑦

あの赤のうた

「東京タワーの下で落ち合いましょう」
今世紀最大の待ち合わせを 赤がいちばん良く映える鉄塔は、地図など要らない 君が好きだった 何にも染まることの無い君が
まぼろしなんかじゃない、今日ぼくが此処に存在していること こうして君が影を落としていること
教会に通う鳩と話した聖書のおはなしを、君に聴かせてあげたい 今日見た空の高さを、君に教えてあげたい
きっと君は相槌すら打ってくれないの

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短編集⑥

短編集⑥

宿題のうた

きみを肯定出来るだけの経験と知識を持ち合わせた言葉になりたかった
誰よりも近くで、きみを抱き締めて居られたら
夏の思い出みたいに朧気な陽炎にはなりたくない
宝箱みたいな夏の絵日記は、先生の前で破り捨てたから
ぼくが言葉になる瞬間、きみはひとりなのだろう
だからぼくはうまれたし、きみもそれを望んだ
夕暮の中、プリズムの様なやさしさを数えたら、きっとこれから世界は目覚める

たのしいうた

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短編集⑤

短編集⑤

夏のうた

全部なくなっちゃった 生きたくて仕方なかった明日と、ぬるくなった麦茶と、首振り扇風機と、蚊取線香の匂い
頭痛が増す きみに良く似た形の憂鬱
明日が晴れでも、雨でも、わたしは死ぬでしょう 蝉が羽化するその速度で
地球の公転に倣って歳を取るから、姿を保てず次のいきものにかたちを変える
きみを救いたい この脆すぎる感情すらも嘘になったら
風鈴の残響が耳の奥で乱反射する
この世界の理を飛び越え

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短編集④

短編集④

過眠症のうた

眠れないから適当なプレイリストをシャッフルで再生する 夜更かしをしたあくる早朝 眠らない街でぼくはずっと「ほんとう」を見詰めていた
静かな雨を、アスファルトが吸収する匂いを嗅ぎながら、ひっそりと呼吸をする海のこえを聴きながら、ぼくには到底触れられなかったきみのこころについて考える
きみの瞳から伝わる溢れんばかりの哀しみと絶望を、恥じること無く隠すこと無く灯らせるきみは愚かでした 愚

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短編集③

短編集③

タイムカプセルのうた

感情論で恋をしようよ 時速120kmで
彗星の真下でぼくたちは小指を絡め合った
口約束にも満たない、ちいさな、ちいさな、ぼくらの反逆
星空のカーテンに包まれて、瞼の裏の宇宙を泳いだ
君の髪の流れ、瞬きの速度はコマ送り
潜在意識の裏に紐付いた有りもしない君との夢は銀河の果てのタイムカプセル
宇宙の中のちいさな海で、ぼくたちはまた会えると信じて疑わなかった
さよならに代わる言葉

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短編集②

短編集②

五線譜のうた

雨音とクラシックは完璧な調和を保って降り積もる
まだ見ぬ五線譜に蛙の子を並べて想い描く
完璧な設計図は何百年と前から羊皮紙上に保管されている
灰となり舞い上がった聖書は今日の空に良く似ていた
今日もわたしの知らない世界で15万ものいのちが溶けてゆく
もがれた天使の翼で白く染まる地球の上、わたしはただただ黒だった
蓄音機に被った埃を拭う様に撫ぜる
今日も、きみだったものを抱き締めて、

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短編集①

短編集①

レプリカのうた

意味も無く溢れる虚しさの中で、きみの見る夢を見た
崩壊したダムの上で、ひとり泣いてるきみは天使のこどもになったらしい
沈みゆく街に、遺骨を撒いた 背中の翼から、羽根を1本捥いで、したためた宙色の手紙に涙のインクは良く映える
何故きみが、そんなに淋しいのか、ぼくにはわからないけど、そんな憂いたきみを、ぼくは、ルーブル美術館の絵画に閉じ込めたい
嘘になったきみの言葉を、ぼくは未だに宝

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