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ダンスとレコードが教えてくれた。直感や感性を大事にした方が幸せにすごせるということ。コミュニティを通じて「人間が人間らしくいられる社会」を目指して。

これまでレコードに針を落としたことはありますか?

アナログレコード事業を中心とした豊かな音楽生活をサポートするサービスを展開する株式会社NOWHERE代表・柴田 広輝 さん。

ストリーミングサービスが主流のイマの時代。レコードの魅力について聞いてみました。

〈聞き手=ゼロトイチ〉

柴田 広輝 (しばた こうき)
地元・福岡にて15歳でストリートダンスを始め、早稲田大学在学中および留学先のアムステルダムにてダンスミュージックに浸かり、ダンスとDJに没頭する。大学卒業後、日系石油企業にて海外営業・事業開発に従事、辺境の地(主にアジア)を飛び回り、巨額案件に奔走会社の上場から倒産までを経験し、経営や会社組織への問題意識を抱く。会社倒産後に渡米、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)MBA留学し、アントレプレナーシップとエンターテイメントを専攻。自身の原体験をもとに、アートとビジネスの狭間を埋めるべく起業。双子4歳男児と1歳女児の父。現在、福岡県福津市在住。
https://www.now-here.co.jp/

レコードはゆっくり音楽を聴く時間や
空間を作ってくれるアイテム

−柴田さんはレコードのサービスを会社で行っていますが、幼い頃からレコードに触れる環境だったのですか。
 
柴田:親が音楽好きで、幼い頃から色々な音楽を聴いてました。15歳でストリートダンスを始めて、そのときは主にCDやミックステープを聴いていました。大学生の時にDJに興味を持ち、最初は手軽にできるPCDJから始めました。きっかけは忘れましたけど、レコードをやってみたいなと思い、ターンテーブルとミキサーを友人からもらったんですよ。そこからレコードを聴き始め、アナログのDJのほうが楽しいということに気付きました。

−どんな瞬間にレコードいいなと思いますか。音楽を選んでいる時間なのか、レコードをかけた時の音質なのか、音楽と向き合えてる時間なのか。
 
柴田:レコード盤を箱から選び、ジャケットから取り出して盤面に触れないように大事に持って、ターンテーブルに載せて針を落として、やっと音が鳴る。そのときの体験が一番感動します。デジタルで簡単に再生するのとは違うので、その手間や音楽を大切に聴く姿勢が気に入っています。

−感動的な瞬間ですよね。
 
柴田:レコードをかけるタイミングって、音楽をちゃんと聴くっていう時間じゃないですか。なにかやりながらのBGMにはしづらい。レコードは、ゆっくり音楽を聴く時間や空間を作ってくれるアイテムだと思います。レンジでチンした冷凍食品より、自分で材料からつくったもののほうが美味しく感じるのと似ているかもしれません。

−どのレコードを選ぶかも楽しみのひとつですよね。

柴田:そうですね。家の方はレコードをジャンルごとに分けていて、その時の気分で探るのは楽しい時間です。機械的に流れてくるものではなく、自分のさじ加減で選んで自分の手で再生するという感覚が満足度を上げてくれるのだと思います。

−DJや音楽が好きな人たちは能動的に掘り下げていくと思うんですけど、レコードに興味あるけどなにを買えばいいかわからないという人にとって、レコード1枚って安い金額ではないと思うんですよ。
 
柴田:そうですね。最近は新品のアルバムで5000円くらいしたりします。

−それで枚数を集めようと思ったら、費用もかかります。そうなると、サブスクで無数にあるストリーミングの手軽さに流れますよね。柴田さんがしているレコードを毎月お届けするサービスは、レコード入門としてもいいですよね。毎月数枚ほどのレコードが聞けて、気に入ったら購入できる流れもいいなと。

柴田:僕もレコードを聴くユーザーとして、店舗に行くのが面倒くさいと感じる場面がたまにあります。都心以外では店舗にいくことさえ容易ではないです。店舗じゃなくオンライン上で中古レコードを買うとしたら、状態が見れず不安とかもありますよね。オンラインでは音源を聴いた上で購入するので、出会いの感覚や、買う体験の記憶も薄いというデメリットもあります。そういう敷居の高さを払拭できて、オンラインのアクセスしやすさを活かして、ワクワク感のあるレコード遊びを気軽に楽しんでもらいたいと始めたのがひとつのきっかけです。

音楽との繋がりを物理的に表現できる

−あとニュアンスが少し違うかもしれませんが、焚き火の炎や海を見て気持ちが落ち着くという近い感覚で、レコードもあるのかなと感じています。レコードに針を落とし音楽を聴くという行為自体が、心を整える時間なんじゃないかと。

柴田:レコードはそういったアイテムだと思っています。くるくるまわるターンテーブルの存在も大きいですが、レコードの音自体がCDなどのデジタル化されたものよりも柔らかさや温もりがあるということはよく言われますね。人の生体リズムと共鳴する「1/fゆらぎ」があるとも言われているので、無意識の部分で、心地よさを感じているのかもしれません。

−焚き火や海は、その場所まで移動しないといけないと思うんです。レコードは家の中で、心を整える時間を家の中でが作れるのも、レコードの魅力だと思います。

柴田:時間だけじゃなく、空間もなんですよ。物理的に場所を取るから、自分の部屋に音楽という空間を作れるじゃないですか。僕も奥さんも音楽がすごい好きだから、家の中にターンテーブルがあることで、音楽を通じた繋がりを物理的に家の空間に持てるのも魅力ですね。

−なるほど。

柴田:このターンテーブルは太平洋を往復していますからね。アメリカまで持っていきました。

−アメリカにも持っていったんですね。

柴田:卒業後もアメリカに住むつもりだったので持っていきました。

−移動中に壊れなかったんですね。

柴田:アクリルの蓋がバキバキに割れました(笑)。レコードは、そういう人生の思い出も含めて、音楽との繋がりを物理的に表現できるアイテムだと思います。

人間が人間らしくいられる社会

−柴田さんの会社のビジョンとして、「人間が人間らしくいられる社会」を掲げていると思います。まさにレコードで音楽を聞くときに流れる空間と時間は、”人間らしくいられる体験 “ に通じてる気がします。スマートフォンで音楽を聴いていても、通知とか見て現実に戻るといいますか...。でもレコードって、ある種のデジタルデトックスの行動にもなりますよね。

柴田:スマートフォンはすごく便利だし、僕ももちろんストリーミングやデジタルファイルでも音楽を聴きます。でも、デジタルは、本来ある連続的なアナログの要素をいろいろ削ぎ落として非連続的な電子信号として、集約しているだけなので、アナログの方が生の感覚に近くていいに決まっていると思っています。

−たしかにそうですね。

柴田:持ち運びとかそういう便利さを取り除けば、音楽を聴く・写真を撮る・本を読む行為は、元々、五感を駆使してアナログでやってたことをやる方が、体験としては良いはずと感じています。

−同じ音楽を聴く行為でも、スマートフォンで聴くのとレコードから聴くのでは、体感が違うのかもしれませんね。

柴田:便利になった分、失われている感覚はいっぱいあると思います。簡単に曲を聴けるから、曲名やアーティスト名もうろ覚えで、曲の背景とかも気にならなくなりつつある。少し前の時代だと、車で聴こうと思ったらレコードからテープに録音して、自分のミックステープを作って、自然とみんながDJをやってたんだと思います。そういうスキルは便利になったからこそ、なくなってきているのかなと。作品を楽しむためにお金を払うという感覚がなくなったせいもあると思います。

−「人間が人間らしくいられる社会」というのは、ご自身もどこかで人間らしくないなみたいな状態があったってことなんでしょうか。

柴田:そうですね。アメリカに留学していたときに、人種や政治思想とか極端な分断と孤独に苛まれる社会の中で、メンタルをやられてる人がいっぱい増えてるという現象を実感しました。メンタルヘルスが大きな社会問題となり、その原因としてFacebookをはじめとしたビッグテック企業が槍玉にあがっていました。2020年はパンデミックとBlack Lives Matterの暴動が同時に起こり、デストピアのような感覚でした。一方で、自身の原体験から、音楽と踊りは人間の本能的悦びをもたらすもので、アートやカルチャーこそが、心の癒しになるものだと改めて感じました。バーチャルがデフォルトになっていく世の中の流れに対して、人間性に根差した文化的に豊かなライフスタイルを、アートを愛するコミュニティを通じて共創していきたいと考えるようになりました。

−その思いに至るには、ダンスをしていたことは関係があるんですか。ダンスは音に対して身体で表現するって一番アナログな行為といいますか。

柴田:影響しているかもしれません。直感や感性。そういったものをもっと大事にしていった方が、人間は幸せなんじゃないか。そんなことを感覚的に思っています。

昔ながらの町並みが残る福津市津屋崎町に構えるレコードが聴ける店舗「shibakenrecords」。徒歩3分内でみれる海の景色。

【柴田さんの手掛けるお店とサービス】

shibakenrecords
「イーストフクオカ」の港町、津屋崎千軒エリアに佇む築約50年の元自転車屋さんを音楽体験工房にリジェネレーション中。
https://www.instagram.com/shibakenrecords/
 

good record club
good record clubはアナログレコードを通じて、人生を豊かにするような「いい音楽」と向き合う時間と空間を、そして「音楽と遊ぶ」体験を共につくる会員制レコードクラブです
https://goodrecordclub.com/
https://www.instagram.com/goodrecordclub/


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