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四月の読書小記録

ひとつきに読んだ本のなかから3冊を選んで、力を抜いてみじかい感想を残していきます。
積極的なネタバレはしませんが、引用はするので未読の方はご自身の判断でどうぞ。


🌷四月の三冊


六人の嘘つきな大学生/浅倉秋成

「日本国民全員で作り上げた、全員が被害者で、全員が加害者になる馬鹿げた儀式です。」

就活をテーマにしたミステリー。前半は正直読むのがかなりストレスだったが、それは多分多くの人が就活で感じる違和感や嫌悪感が「あるある」として書かれすぎていたからだと思う。どこか登場人物に人間らしい魅力や親しみも感じきれず、このまま「あるある」小説として終わるならあまり好みではないかな……と思っていたら、それは巧妙に計算された描写で、後半「あるある」に気を撮られて見落としていたことを手掛かりに諸々がひっくり返っていくのが快感だった。人間の多面性、と聞くとすぐ悪い面ばかり想像してしまうのは、好きだと思っていた人の真っ黒な面と対峙して傷つくのが怖いからかなあ。
全編Audibleで聞いたら密室グループディスカッションの臨場感がとてもよかった。

成瀬は天下を取りにいく/宮島未奈

「わたしが思うに、これまで二百歳まで生きた人がいないのは、ほとんどの人が二百歳まで生きようと思っていないからだと思うんだ。二百歳まで生きようと思う人が増えれば、そのうち一人ぐらいは二百歳まで生きるかもしれない」

興味を持ったことには一直線、毎日を全力投球で生きる成瀬と周囲の人々の物語。私は矮小な人間なので才覚あふれるキャラクターを見ると妬んでしまいがちなのだけど、成瀬が嫌味に映らず、むしろ応援したくなるのは、嫉妬を挟む余地がないほどの真っ直ぐさのせいだろう。失敗もするし、途中でやめたりもする。だけど何かをやってみたいと思った自分の気持ちは絶対に裏切らない。人の情を解さないタイプのスーパーウーマン?と思いきや、最終章「ときめき江州音頭」で成瀬が揺らぐところまで見せてもらったら、もう、彼女が愛おしくて仕方がない。成瀬も島崎も、登場人物みんな幸せになってほしい。

幸せへのセンサー/吉本ばなな

「一人旅に出る必要もないし、日記も書かなくていい。もちろん書いてもいいけど、肝心なのは何をするかじゃない。それをいちいち人に言わないことです。自分のしたことを自己表現の手段として使わない。そうしないと発酵しないから」

吉本ばななさんが「幸せ」に関するたくさんの秘密をこっそり聞かせてくれるような作品。心に響く言葉や考え方が本当に多くて、すべてメモしたかったのだけど、Audibleで聞いたのでほとんど活字として残すことができなかった。でも仮に内容を忘れてしまっても、イヤホン詰め込んで夜道を歩いた(みんなは安全に気をつけてね)時間こそが大切だったんだよね、と思わせてくれるような作品。あたまと脳が心地よくほぐれる。
引用したのは特に自分に刺さった言葉。「自分のしたことを自己表現の手段として使わない」……小説家として長く活躍されてきた吉本さんの言葉だからこそ重みがある。
私は短歌をはじめ文芸創作が好きで、SNSもかなり好き。もうこれは半ばaddictedなものなので変えるつもりはないけれど、表現をしながらどうやって自分だけの世界を守っていくのか、ということはずっと課題だ。実際私は早速読んだ本の感想をベラベラとネットの海に垂れ流しているわけで。でもそのあたりは多分書いていくなかで、自分にとってのちょうど良いバランスを見つけていくしかないと思う。だから記事を読んでくださっているみなさんもぜひ「この人(私)には書いていること以外にも色々なうれしいこと/悲しいこと/怒っていること などがあるんだろうな〜」とゆるやかに見守っていただけると助かる。



四月、春だからって新しいもの・こと・ひとたちが勝手に次々と襲い掛かってきてくることに腹が立ち、一つくらい自分の意志で新しい何かをを始めてやらあ!と簡単な読書記録を書くことにした。
やることを増やしてただ自分の首を締めているだけかもしれない。でも私が選んだ忙しさは私だけのもので、たとえ酸欠でくらくらしちゃっていてもやっぱり気持ちのいいものだ。
とはいえ苦しさが勝ったら全然やめるし、もしかしたら今月が最初で最後の読書記録になるかもしれない。そのくらいの気楽さで日々を生きていきたい。

四月 スワンボートに乗って、楽しかった


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