見出し画像

新春のカミングアウト

毎年この時期になると思い出す話がある。
奥さんとまだお付き合いをしていた頃の事。付き合って初めてのお正月を東京の私の家で迎えた。お店やらお出掛けスポットは休業か大混雑が予想された為、自宅に籠る予定だったが、あまりにも暇になったので「家に引きこもるのも何だし、せっかく東京にいるから、東京らしいところに行こうよ」となり、話し合いの結果、翌日東京タワーに行くことにした。

1月2日、地下鉄に乗って御成門駅を目指す。道中他愛もない話をしながら盛り上がっていた。地方出身の私としては、お付き合いしている女性とど定番の東京タワーに行くこととお台場の観覧車に乗ることはちょっとした憧れがあった。何ともミーハーではあるが、みんなそうだと思う。(そうだよね?そうだと言え!言うんだ!!…)満場一致となったところで話を進めるが、小説、映画、テレビドラマ、テレビ番組で何かと取り上げられるスポットに行ける…夢が一つ叶うことにとてもウキウキしていた。奥さんもとても楽しそうだったのを覚えている。

東京タワーに到着すると予想通りの大混雑!特にエレベーターで展望台に向かう人たちの行列がすごかった。「階段で登るコースが若干空いております。よろしかったらご利用くださ~い!」とアナウンスが流れるほどすごかった。混雑を避けるのは良いが、その先に150mまで続く階段を登って息も絶え絶えになりながら展望台散策することになる。私たちは東京タワーにトレーニングしに来たのではなく、デートをしに来たのだ。そもそもタオルと着替えを持ってきていない。大人しく行列に並びエレベーターで向かうことにした。少しずつ順番が近づいてくる。「もうすぐだね~」とか言いながら、エレベーターの順番を待っていた。ここでふとあることに気づく。奥さんの口数が明らかに少なくなっていたことに。さっきまで2人で盛り上がっていて、もう少しで順番だと言うのにである。緊張なのか体調不良なのか…心配になって「大丈夫?どこか具合でも悪い?」と聞いてみる「うん。大丈夫。」と言ったあと信じられない一言に驚愕することとなる。

「実は高所恐怖症なの…」

「えーーーーー!?」である。誤解のないように言っておくが今回の東京タワーに行く企画は2人で話し合って決めたので、私は一切無理強いはしていない。道中も特にそんなそぶりを見せているわけでもなかったので、全くそれに意識は向いてなかった。ここにきてまさかのカミングアウトである!一瞬頭が真っ白になったが頑張って冷静さを取り戻し、「無理に行かなくても大丈夫だよ?列から外れるかい?」と確認をした。奥さんはそれでも「行く」と言ってくれた。そうこうしている間に順番が来てエレベーターに乗り、展望台に到着。「なるべく外側に行かないようにしようか。」と展望台の存在意義を全否定する謎の配慮をしながら散策を開始した。

ところが突如障害現る。床の一部がスケルトンになっている箇所があったのだ。ここまで遠くを見るように声を掛けながら何とか回っていたのだが、それに気づくと奥さんの恐怖はピークに達した。恐怖に慄きながらも何とかそのポイントを越えて、1周回ることができた。奥さんよく頑張ったと思う。カフェやら似顔絵やらいろいろと見どころもあるのだが、主に奥さんにそれらを堪能する余裕はなかったので、このまま地上へ降りることにした。地上に戻ってようやく安心できたようで、そのあと下のお店を散策し家に帰った。

このエピソードは今でも2人の話題になる。(主に私がネタにするのだが…)
ある時、なぜカミングアウトがそのタイミングだったのかを聞いたことがあった。奥さんが言うには奥さんも東京タワーに登ることは憧れだったらしく、その憧れは自分が高所恐怖症であったとしても登ってみたいほど強かったらしい。(これでは夫婦そろってミーハーということになってしまうのだが…)そんなこともあって、それ以来2人で東京タワーに行くことは無くなった。ここからしばらく経って東京スカイツリーが完成したのだが、当然行っていない。

とは言っても、奥さんは私のダム巡りに付き合わされたり、奥さんの家族と三島スカイウォークに連れて行かれたりと何かと高い所に縁がある。そのたびに恐怖と戦っている。行かずに待っているとか、断るとかの選択肢があるのに…である。ここまでくるとそのうち克服できそうな気もするが…

#私だけかもしれないレア体験

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?