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心理支援とライフストレスケアの今後~科学的再現性の限界と人間学的展開

心理支援の歴史においても各療法家がそれぞれの臨床場面で工夫をこらして相談者への支援を続けてきた。
その成果と基礎研究が統合されるなかで標準的な理論が形成され、さらに追試的に研究が重ねられて科学的な意味でのエビデンスが積み重なってきた。

現代社会ではその成果のうえに研究が続けられているので、かつてのように各自がそれまでの理論を無視して自分なりの介入をすることは、相談者の人権や利益を損なうことになるので、厳しく批判される。

これは先行して発展している医学を例にとると分かりやすい。
エビデンスも理論も不十分な治療を患者に施せば法的に訴えられるだろう。その意味で実験的な療法はその旨了承を得て行うことになる。

以上のような考え方は、再現性を大切にする科学的なアプローチであり、科学的な枠内で発展を目指している臨床心理学の場合には当然の態度だと考える。
その意味では素人的に効果があるだろうと自分の思いついた心理支援をしている者に専門家から批判があることは仕方ないことだと思う。

ここでの論点は、はたして臨床心理学や心理支援が医学のように再現性の担保された効果的なものだろうかという疑問があることだ。

人間が生命、生活、人生をつむいでいくうえで考慮しないといけないことは多岐にわたっていて、その諸問題の原因を「心理」に帰すことには限界がある。

また、その意味で各自に起きる出来事は一回性のものであり、他者とは異なるもので、いくら臨床心理学が科学を標榜しようと、医学のようには再現性は保証できないと考えている。

複雑性、不確実性、関係性の問題を抜きにして、心理やストレスの問題は扱えない。
もちろん、人間や社会に関する科学的知見は総合的に取り込んだうえで、「どのように生きるか」という問いにむけて人類が蓄積してきた様々な知恵も活用していくことが大切だ。

注意すべきは、医学がそうであるように、臨床心理学はその適用範囲を明確にしてその限界を守ることではないか。

少なくとも「治療モデル」である以上、特定の症状や問題に限定して活用すべきであって、生活全般、人生全般を扱えるものではない。

私はストレス被害への対処を目的とする狭義のストレスケアの役割を超えて、生活全般、人生全般を対象とした広義のストレスケア、「人間学」としてのライフストレスケアを提唱している。

公認心理師や臨床心理士の役割を特定の専門的な分野に限定するとともに、現代社会のストレス問題、つまりこれからの人間の新しい生き方に関する総合的な学問体系は別に用意する必要があり、ライフストレスケアはその一つであると自負している。

今、批判されている根拠のない、独自の心理支援をしている方々は、患者の利益のためにも、臨床心理士などの専門家につなぐことが大切だと考える。
そして、もっと視野を広くして、科学的な視野の限界を超えて、人間の実生活を支援する分野に移行してほしいと考えている。

ひいてはそれが心身の疾病の予防、ストレス被害の予防にもなり、臨床心理士、公認心理師ともうまく連携できるようになるのではないか。

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