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チッテで愛してる#7『私の子供 後編』

 ジャスミンが突然言った

「あなたどうして私の事をBabyって呼んでくれないの?」

 呼んで欲しかったんだ!?僕は驚きながら考えて言った

「僕は日本人だからベイビーって呼ぶのは恥ずかしいよ」
「じゃあ日本語でベイビーってどう言うだよ?」
「坊や?」
「ボーヤ?」
「そうよ坊やこっちにおいで」
「私ボーヤ?」
「そうよ坊や」
「私ボーヤ?嬉しいーーボーヤ。あなたもボーヤ」
「坊やハグして」
「YES!ボーヤあなたは私のかわいいボーヤ」
「あなたも私のかわいい坊や」

 この日から僕はジャスミンの事を坊やと呼んでいる。坊やと呼ぶたびにジャスミンは嬉しそうな笑顔になる。



 携帯が鳴った。僕は妹からだと確認し、携帯を置いた。それを見てジャスミンが僕に言う。

「なんで出ないの?」
「きっと怒ってるから。」

 妹からラインが入った。

 “母の日に、家族で食事してお母さんにプレゼント渡そうと考えてるんだよね。光世も帰って来て欲しい。”

 ラインの内容をジャスミンと確認し。ジャスミンが言う。

「お願い帰ってあげて」
「帰れないよ」
「あなたダメな人だよ。帰れるのに帰らない。なんで?」
「帰れないんだよ。お母さんを悲しくさせちゃったから」
「あなたに会えない。それはもっと悲しいな事だよ。あなたの考えは関係ない。お母さんのために帰ってあげて。お願いコセ。」

 お母さんに会いたい。すぐにでも会いたいし、お母さんの声を聞きたい。僕は少し前の事を思い出していた。

 今年の僕の誕生日の話。

 お母さんから電話が来た。嬉しかったし出たかった。しかし、勇気がなくて携帯を持った手が動かなかった。苦労ばかりしていたお母さん。僕が就職をして、やっと楽をさせてあげられるはずだった。楽をさせてあげなきゃいけなかった。しかし僕は自分のわがままで、何も言わずに家出をして東京に来てしまった。お母さんを泣かしてまでして芸人になったのに。今の僕は何者でもなかった。芸人だけでは食って行けずに、バイトをしていて、生意気に恋愛までしている。お母さんにこんなにも苦労をさせておいて、なんの成功もしていない僕。電話に出れるはずがなかった。電話に出ようか、出てしまおうか。そう考えているうちに電話は切れてしまった。自分がちっぽけだった。僕は音を止めた冷たい携帯を握り締めて静かに泣いていた。そんな僕をジャスミンが抱きしめてくれた。僕が何で泣いているのかジャスミンは知らない。知らないジャスミンが言う。

「大丈夫だよコセ。泣かないで…‥」 

 話は今に戻る。

 僕はジャスミンに言った。

「二人でお母さんに会いに行こう。一人じゃ怖い。でも坊やと一緒なら行ける」

 ジャスミンは困ったように目を細めて、小さな声で言う。

「ダメよ・・・私は行けない。あなたのために言ってるだよ。お母さんが私を見たら・・・お母さんがあなたの事を嫌いになっちゃう」

 僕はジャスミンと一緒にいすぎて忘れていた。ジャスミンは男の子だった。今の僕には心の入れ物の話なんて関係なかったし、興味も無かった。しかしお母さんには別だ。家出をした息子が同性愛者になって、ミャンマー人の男の子と帰ってくる。受け止められるはずがなかった。    

 ずっと苦労をして育ててくてた母さんをまた苦しめてしまう。お母さんの顔を想像したら僕の心が苦しくなった。孫の顔も見せれない。お墓の問題もある。山梨の閉鎖的な田舎町。そんな場所で息子が男の子と付き合っているなんて、お母さんも白い目で見られてしまう。問題なんてあげればキリがなかった。お母さんにジャスミンは紹介はできない。しかし、家族に何を言われても、ジャスミンと別れる選択肢なんて無い。いつかジャスミンを紹介した方がいい。そんな事はわかっていた。しかし、そのいつかの日を想像すると。怖くて、唇が震えた。嫌な展開ばかりが、頭に広がる。

 そんな中ジャスミンを見た。丸くなって座り、困ったように僕を見つめるジャスミン。僕はジャスミンの髪を撫でて言った

「悲しくならないで・・・こっちにおいで坊や」

 ジャスミンは何も言わずに離れた場所に下を向いて座ってしまった。僕は守りたかった。ジャスミンの笑顔と今の二人の関係を。僕は決心した。家族にジャスミンを紹介する。二人の関係を許してもらえるなんて思ってはいない。しかし、家族に内緒でジャスミンと付き合う、そんなことはしたくなかった。ジャスミンの存在を家族に隠す時間が長くなればなるほど、二人を包む世界が重くて暗いものになっていく。罪悪感が犯すこの空気を、少しでも二人が好きな色に染めていく努力をしたかった。家族になんて言われようが、もう故郷に帰れない事になろうが、僕の気持ちは変えられない。僕はジャスミンを愛してしまっていた。

 しかし、一つだけ怖かった。
ジャスミンは耐え切れないんじゃないか。もし、目の前で二人の関係を全て否定されたら。故郷に帰らないでも二人でいると僕が言ったら。優しいジャスミンは、自分で身を引いてしまうんじゃないか。身を引かないで、二人で暮らしたとしても今までとは同じ関係ではいられなくなってしまう。お互いに違う罪悪感を抱えたままの生活。居心地がいい場所なはずがなかった。  

 問題ばかりの僕達。どう行動するのが正解なのか僕には解らない。一つだけ分かること。僕はジャスミンを愛している。しかし僕は愛の使い方がわからない。分からないから、苦しくて、苦しいから、言葉にした。


「ジャスミン 二人で行こう。二人のために言ってるんだよ。お母さんがあなたの事を嫌いになっても私が守ってあげる。何があっても大丈夫…僕はあなたを愛してる。」

「違う。私が守ってあげる。」

「ありがとう」

「ありがとうはいらない。ありがとうのために言ってない。」

 僕の思っているよりもジャスミンは強い人だった。


 実家に帰るために電車に揺られる二人。電車の窓から流れる景色が故郷に近ずく。僕は知らなかった。この景色がこんなにも美しいなんて。東京に暮らし出した時は、田舎者だとバレるのが恥ずかしくて、一生懸命に標準語を覚えた。今、車窓からは永遠に田んぼと山が流れる。変わらないその景色が美しくて、ずっと窓の外を見ていた。次第と電車内を夕陽がオレンジ色に染めた。そんな時、僕は隣のボックス席に座る30代ほどのサラリーマン三人の会話に聞き耳を立てていた。スーツ姿のサラリーマン3人が笑った口元を手で隠して、僕とジャスミンを見て何かを話していた。一人のサラリーマンが僕達に聞こえるように言った。

「どんなけーーー」

 それを聞いた他の二人が声を殺して笑った。この街は何も変わっていなかった。

 電車が実家の最寄り駅に着いた。この駅で降りる人は僕達二人だけ。駅から家まではバスも通っていない。タクシーに20分ほど乗るしかない。タクシーを呼ぶために、電話ボックスのタウンページを見ていた。そんな僕にジャスミンが言った。

「あなたの家に行く前に、お母さんに今から帰るよって電話して。そして私がいる事も言って。お願いコセ」

 僕はタウンページを置いて考えた。電話でなんて言えばいいんだろうか?。
 “母の日だから帰って来た“  
 “家出してごめん“  
 “恋人を紹介したい”                      
電話の一言目が分からなかった。ここまで来て、まだ電話もできない。勇気の無い自分が嫌いだった。 僕はジャスミンに言った。

「ごめん、電話できない。」
「お願いよコセ、ちょとだけ頑張って」

 僕は長く考えて言った

「お母さんと会う前に友達と会っていい?ご飯ちょっと食べるだけだから。」
「・・・いいよ。あなた友達に会いたの分かる。ちょっとなら。」

 怖くて、お母さんに会うのを先送りにしてしまった。勇気が欲しくて友達に会いたかった。僕は地元で一番仲の良い友達に電話をした。

「もしもし、光世だけど」     
「光世?マジで光世?お前ずっと何してたでー。なんで電話出ちゃくれんでー。今みんなで飲んでるっつこん。みんなに電話変らー」
「ちょっと待ってカズ(和希 カズキ)今俺○○駅に居るんだよね」
「マジで?帰ってきた?ちょっと待ってしー友達全員集めるわ。」

 電話の向こうに向かって和希が叫んだ。

「おい。光世が帰ってきたって。おい全員に電話しろしー全員集めちゃー。とりあえずお前ら片っ端から電話だよ。」

和希が僕に言う

「おまんもこっちこーし友達全員集めるわ」
「ちょっと待ってカズ、話しちゃんと聞いて」
「おまん話しかた気持ちわりーな。なんでー?」
「家族でご飯を食べる予定があるから、長居はできない。あと、彼女も一緒に居る。」 
「彼女も一緒にちっとで良いから、早くこーし。迎え送るわ。みんな会いたがってっから。」
「和希聞いて。彼女って男の子なんだよね。」
「うるせーよ、そうゆうのいいから。とりあえず、待ってろし」
「カズ本当に男の子なんだよ」  
「もういいわ」                         
「本当に男の子…レディーボーイなんだよ」
「男と付き合ってるの?」
「…そう」 

 お互いに黙ってしまった。黙ったカズの奥から、賑やかな飲み会の声がうるさく聞こえた。懐かしい笑い声の数々が聞こえた。長く黙ってカズが言った。

「俺、そういうの気持ち悪いって思っちゃう」
「そっか」
「いや、別にそう言う事を言いたいんじゃなくて、そりゃここに来れないよな」
「いやそうじゃなくて・・・また電話するよ。」

 僕は電話を切った。そして、「そうだねー」そう呟いた。
 ここは山梨の田舎町、同性カップルを見たことがある人なんていないだろう。見たことも、触れた事もない存在は怖いんだ。そして、知っている物が、いつの間にか、知らない物に変わっていたら尚のことだ。大切な物を手の中に納めたら、他の物は受け取れない。こうなる事は予想していた。予想していたが、悲しくなった。ジャスミンが僕に聞く。

「友達なんて言った?」

「忙しいって」       

 そして僕はジャスミンを抱きしめた。こんな事があってもジャスミンへの気持ちは変わらないと、自分に聞かせたくて。欲しかった勇気が何処かに消えて、僕はジャスミンんとタバコに火をつけた。しばらくして、僕たち二人はタクシーに乗り込んだ。会話のないタクシーが、3年前に家出をした一軒家の実家についた。

 その家には知らない家族が暮らしていた。なにがおきているのか理解できなかった。僕は親戚のおじさんに電話をした。

「お久しぶりです。あの光世ですけど。」

「光世?どうしたんだよ。」

「あの、山梨に帰ってきたんです」

「仕事で?」

「いえ、あの・・・彼女との交際をお母さんに認めてもらうために。」

「・・・それは光世都合良すぎずらぁ。家族が帰って来て欲しかった時に帰らなんで。○○おじちゃんの葬式も帰らなんだし、姪っ子の七五三も帰っちゃこんし。○○の結婚式もお前は居なかったじゃんか。そんなお前が、自分が認めて欲しいから帰ってきたじゃ、そら、お母さんも怒るら。母の日を祝いに来たんじゃねーのかよって悲しくもなるよ。もうちょい慎重に進めないと。彼女が一番可哀想だよ。」   

「はい・・・ごめんなさい・・・でも、もうここまで来ちゃったので。あの、ひとつ聞きたいんですが、僕の家族は何処に住んでるんですか?」

「しらんの?元の団地の違う棟に戻ったんだよ。今、お姉さんが子供と二人暮らしで、妹ちゃんは彼氏と暮らしてるよ。」

「分かりました。ありがとうございます。」

僕は知らなかった。お母さんは、一人暮らしになっていた。あの一軒家にはもう帰れないんだ。家族全員で手繰り寄せて形作った愚痴が言える場所。そこはもう無くなり、お母さんは、愚痴を言える相手もなくした。そんなお母さんに声をかけるどころか、そんな現状を知る事すらできていなかった。そんなお母さんにジャスミンとの交際を認めてもらいに行くのか?言えるはずがない。

お母さん。あなたの事を考えなかった夜はないと。そう言葉にしたら。そんな、安い言葉を口にしたら。あなたは・・・

僕の体中の血が少しずつ凝固していき、お腹の上の方が重くなった。実家の団地に近付くにつれて緊張が高まる車内。その途中でジャスミンが何度も聞く。

「お母さんって怖い?」

痛いほどの緊張を乗せたタクシーが団地の前に付いた。一階のポストがいくつも並んだ中からお母さんの名前を見つけた。お母さんは旧姓に戻していた。お母さんの旧姓の姓と名の漢字の組み合わせを生まれて初めて見た。歩いた事の無い階段を一段ずつ上がる。ここに実家に帰るなんて感覚はなかった。知らない世界へ続く階段。罪をいい渡される前の罪人のような気持ち。階段の先に無機質な鉄のドアが見えた。

思い詰め苦しい表情で、階段を登るジャスミンの手を取った。今日ジャスミンはほとんど言葉を口にしていない。きっとジャスミンは僕よりも怖いだろう。そんなジャスミンの不安を少しでも和らげたくて僕は言った。

「おいでジャスミン」

僕はジャスミンにハグをした。そして続ける。

「僕はあなたのことを愛してる。なにがあっても愛してる。お母さんがあなたのことを嫌いになっても僕はあなたを嫌いにならない。ジャスミン、一緒に行こう。」

「私怖い。」

「大丈夫、僕がいる。ジャスミンちょっと待っててね、先に僕が家に入るから、あなたはここで少しだけ待っててね。」                                  

ジャスミンにそう言い、僕はドアノブに手をかけた。ドアを少し引く。鍵は掛かっていない。荒くなった息を全て吐き出して、力一杯肺に空気を入れた。3年間出せなかった勇気を手に込めて僕はドアを開けて言った。                                                           


「ただいま。」

廊下の向こうから、「光世?」「え?光世?」そんな声が聞こえて家族全員が玄関まで走って来た。お姉ちゃんとその子供。妹とその彼氏そして…遅れてお母さんが。お母さんの顔を見て


「家出してごめん。」                                                      

 そう言おうとした。言おうとしてるのに言葉が出なかった。言葉は出ないのに涙は自然に出てきて、


「ぐうー」
                                そんな変な声が出る。どうしたらいいか分からずに、ただ涙を拭った。何も言わないままの僕をお母さんが抱きしめた。長い時間をそのまま過ごした。お母さんの腕が、あの時よりずっと細くて、髪がボロボロになってて、余計に涙が止まらなかった。そしてお母さんが僕に言った 

「あんたねぇ、こんなに痩せちゃって、ご飯ぐらいちゃんと食べなさい。」

                                                「ごめんなさい」


                                                 「・・・おかえり光世。ずっと待ってた・・・あんたの帰りを。」    


                                                  お母さんの腕の中が暖かくて涙が止まらなかった。お母さんの腕の中で、子供に戻されたように泣いた。僕の不安や心配や寂しさ、全てを丁寧にタオルで拭き取ってくれる。そんな気分だった。そんな僕にみんなが一斉に質問をした。 


「ちゃんとお金稼げてるの?」

「借金してないでしょうね?」

「お酒飲みすぎてない?」

「友達はできたの?」

「喧嘩してない?」

その質問が優しくて、一つも答えられなかった。

そんな時、黙って泣いてる僕の頭の中に誰かが囁いた。

「ジャスミン」

その囁きを聞いて、僕の感動は緊張に変わった。涙がピタッと止まり、汗に変わった。僕は言った。                                                       

「みんなに紹介したい人がいる。今来てもらってる」                                        

お姉ちゃんと妹が嬉しそうに大きな声で言う。                                           

「えーー?彼女できたの?見たい見たい!!」                  

 僕は玄関のドアを開けて、ジャスミンに言った。                                        

「入って。」
                             困ったような顔のジャスミンが玄関のドアを半分だけ開けて、小さな声で言った。

「Hello ... 」

そんなジャスミンを見て家族全員が黙ってしまった。急に空気が変わり、写真のようにぴたりと動きと時間が止まった。一瞬で緊張が走り重たくなった空気が長い沈黙でさらに重くなる。何か話さないと何か話さないと、何度も心で呟いた。そして僕は言った。

「お母さんあの、ジャスミンねすごくいい子なんです。ジャスミンね」

途中でお母さんが大きな声でわって入った。

「ジャスミン?」     
                                                   その言葉を聞いて、怖くなった。怖いからよけいに大きな声で僕は言った。精一杯の勇気を振り絞って。

「お母さん今日はジャスミンとの交際を認めてもらうためにここに来ました。」                                                           

お母さんが早口で、大きな声で言った。

「こんな所でする話じゃないでしょ・・・とりあえず入りなさい。」

 普段見せない、お母さんの大人な態度と話方にその場に居た全員の表情が固くなる。そして、今から始まる重たい話し合いの覚悟を迫られた。全員でこたつにあたった。

 お母さんが台所に立ち、残ったみんなでお酒を飲んだ。30分ほど時間が経ち、お姉ちゃんの子供が突然言った。

「ねぇママ、ジャスミンっておかまなの?だって声がおかまだよ。」                                                             

「やめて、そんな事言っちゃだめ。」

僕は言った。


「いいんだよ。みんな聞いて欲しい。お母さんも料理をやめてこっちに来てください。」

 お母さんはコタツには入らずに立ったまま話を聞いた。

「本当に我儘なお願いですが、ジャスミンとの交際を認めてください。あと・・・ジャスミンは男の子です。・・・ごめん、 
難しい問題だけど・・・母の日なのにごめん…でもジャスミンと」

「いい加減にしな。聞きたくない」

急にお母さんが叫んだ。

「自分が何を言ってるか分からないの?そんな事言うもんじゃないよ。ごめんなんて・・・それを聞いたら、ジャスミンがどんな気持ちになるか分からないの?」

お母さんがジャスミンに言う

「おいでジャスミン」
                                    そしてお母さんがジャスミンをハグしながら言った。

「この家では何も気にしなくていいの。いいの男の子でも。男の子でもいいの・・・」

男の子でもいいと、そう言ったお母さんが泣き出した。泣きながら、閉まっておきたい感情を強引に吐き出すように、ヒステリックにも聞こえる大きな声でお母さんが言う。



「光世が選んだ人だもん、いい人に決まってるもん・・・」                       

 そんなお母さんの小さな腕の中でジャスミンは声を出して泣き出した。お母さんがジャスミンをハグしながら、涙で声を詰まらせながらジャスミンに言った。
                                          「ごめんねジャスミン・・・光世めんどくさい人でしょ。いつもお酒飲み過ぎちゃうでしょ...あの子自分の思ってる事を言葉にできないでしょ...光世は弱い人間だから・・・
だから、ジャスミンには苦労をかけると思うの。あの子ね、わがままが言えないの。これを言ったら相手がどう思うか、そんな事ばっかり考えちゃうの。だからね、すぐに黙っちゃう。
ごめんね、めんねどくさいよね・・・
でもね、私がそう育てちゃったの。私、あの子に一回もわがままなんて、言わせてあげれた事無かったから...」

僕はお母さんの言葉を聞いて涙が止まらなかった。お母さんがそんな事を考えていたなんて知らなくて、色んな感情が込み上げて、なんで泣いているのかも解らないほど涙が出た。ジャスミンも僕もお姉ちゃんも妹も妹の彼氏も。全員が声を出して泣いた。泣きながらお母さんの話を聞いた。


「あの子が小学校の時、私がいつもどうりに夜に帰ったらすごい高熱を出してたの。なんで私に電話しなかったの。学校も、なんで保健室に行って早退しなかったのって叱ったらね・・・

『すーが病気だから、お母さんは少しでも、すーの側にいてあげて欲しい』

そう言うの...
一番辛かったのは光世なの、お父さんの事も、妹の事も、私の事も、自分のせいじゃないのに、いつも自分を犠牲にしてた。あの子が芸人になるって家出した時も悲しかった。最後まで自分の気持ちを家族に言えないんだって、家出するしかなかったんだって、それが一番悲しかったの...
だから、ジャスミンとあの子が話してるのを見たら私、涙が出ちゃって・・・
ジャスミンの前だとあの子が我儘を言えてるの・・・
ありがとうジャスミン。私が20年してあげれなかった事をジャスミンはしてあげれてるんだね...なにがあってもあの子の側にいてあげて。あの子にはジャスミンが必要なの。私じゃダメなのジャスミンじゃないと。」

ジャスミンが泣きながら、叫ぶように言った。

「また、この家に来ていいですか?」

「いつでも帰っておいで。ジャスミン…あなたはもう私の子供よ」                 



この部屋に居る全員が違う理由で泣いていた。


 食事も終え、帰る準備を済ませた僕とジャスミン。玄関で僕は言った。

「じゃあ そろそ俺たち帰るよ。」

 お母さんが言う。

「ちょと待ちなあんた。いいかい、家を出るときはね…行ってきますって。そう言って家を出るんだよ。」

 お母さんの言葉で急に涙が出た。3年間の全部が詰まった言葉に声が出なかった。身体中の力と熱と後悔を吐き出すように僕は言った。 

「行ってきます。」

 お母さんも泣きながら言った。

「はい。きをつけて」


 僕達は家を出た。ジャスミンと二人で見上げた夜空の星が、昨日よりも綺麗だった。





チッテで愛してるを読んでいただいてありがとうございます!!

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 この話がハッピーエンドになるかバットエンドになるかは皆さん次第です。この物語の最後を一緒に見てみませんか?そして一緒に喜びませんか?
服はちょっと、、、そんな方も僕が書いた小説の続きを読んで下さい。

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チッテで愛してる
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コセ&ジャスミン


ラジオです!

ぼくが芸人仲間と一緒にジャスミンの話をラジオでしています!!
作業用BGMにぜひ!!




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