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鰤(ぶり)の血合い

 

 旬はとうに終わってしまったが、魚の中では「鰻」を除けば「鰤(ぶり)」がダントツに好きなのだ。


 特に塩焼き……とはいえ、ここ何年かは金欠病とあって全く口にしていないが、時々無性に食いたくなる。

 そんな僕だが、ガキの頃は照焼きなどは好んだものの、必ず付随している「血合い」が大の苦手だっのだ。生臭いし、歯触りも不気味……こんな部位は取ってしまえと駄々を捏ねたこともあったらしい。
 一方、魚好きの叔父2などは……「血合いが美味いんだ!」と譲らず、僕が残した部分をむしゃむしゃ食べていたのを思いだす。

 調べてみるとこの「血合い」……「血」の字こそ使ってはいるものの実は「血」ではなく、「赤色線維筋」とか言う「筋肉」の部位という。

 いずれにしても、いかに鮮度が良くても多少の生臭さがあることに変わりはなく、子供が、場合によっては大人ですら敬遠する人はいても納得は出来る。

 実際のところ僕にして、少し大人になってからは平気で「血合い」も口にしたが、叔父2ほどの「通」でもなく……ある種のマナーとして食べていたというのが正直な所でもあった。

 ところが、とある事が切っ掛けで、この「血合い」を貴重な部位として認識するようになったのだ。

 きっかけというのは「鰤」とは無縁の、「アンチョビ」に関する出来事である。

 そう。学食で食べたトンカツになぜか、デミグラ風のソースが掛かっていて、……たぶんサックスを吹きまくっていて腹が空いていたのか、やたら美味かったのだ。
 その時の直感として……このソース、もしかして「アンチョビ」が入ってない?

 確かめはしなかったのだが、僕はこの直感のままに、家で実践してみることにしたのだ。
 まあトンカツは好きとはいえ、掛けるのは一般の「トンカツソース」か「中農ソース」が常識だったのだが……つい、冷蔵庫に残っていたハンバーグソースに、これもたまたま在庫してあった缶詰めの「アンチョビ」を少し加えてソースに仕立ててみたのだ。

    美味い!

 ありきたりのデミソースが、格段にその風味を格上げしているのだ。
 確かに「アンチョビ」というのは「旨味」と同時に若干の「生臭さ」があるものだが……その「生臭さ」が、微妙に味に彩りを添えているのだ。

 「鰤」からは話が逸れたが、実はこの経験が後……僕の「鰤」の食いかたに革命を起こしたしだいである。

 そう。僕は当の「血合い」を……「アンチョビ」よろしく、「薬味」として用いることを思い立ったわけだ。
 言ってみれば、刺し身を食う時の「ワサビ」的な使い方である。

 では、そんな僕の「鰤」の変則的食いかたをご紹介しよう。

 食卓に上がった……照焼きでも塩焼きでも、その「血合い」を薬味と考え、これをワサビのように身に乗せるようにして食するのである。
 もとより「血合い」の部分は身よりも少ないので、載せる量も目分量で調節しながら……ついては、身を食い終わった時には、同時に「血合い」もすべて平らげたことのなるのである。
 もとより僕個人の好みではあるが……この食べ方だと、それぞれの部位を単独で食べるよりも俄然美味しいのだ。

 へんちくりんな食べ方ではあるが……もし「血合い」の苦手な人がいたら、まあ好奇心として実践してみてはいかがだろうか……

 

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