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優雅なプリーツスカート

 女性のエレガントなプリーツスカート姿が昔から好きなのだが……どうも、最近はイメージとして蟠っている理想のプリーツスカートを見かけない。

 もとより女性のファッションには疎いが、街で見かけるプリーツスカートと言えば、女高生あたりの極端に短い奴か、あるいは成人女性のかなり長めの奴だ。

 僕が一番美しいと思っているのは、膝丈あたりの、……今どき流行らない型らしい。

 思えば、原点があるのだ。

 中学生の時だが……同級生の女子で、ちょっとつり目で、特別美少女というわけでもないのだが、制服——襟のないブレザーみたいな——のスカート、……当時のことだから膝丈の紺色ながら、いつもプリーツにピシッとプレスが掛かっているのだ。
 確か、「ヒロ子さん」と言ったはず。
 本人の嗜みなのか、お母さんの気配りかは知らないが……それだけのことで清潔感に溢れ、事実「エッチ」の入り込む余地もないほどに、優雅に見えたのだ。確かに、脚はスラッとしていたと思うが、整えられた襞が、その子の動きに合わせ、なんとも音楽的に舞い、揺れるのだ。
 何か特注の仕立てではないかと勘ぐったこともあったが、そんなことはないらしい。

 実は、中学に上がると同時に、目に飛び込んできた別の飛びっきりの美少女がいて、かなりトキメイタものだが……なんと、先のヒロ子さんに比べ、ガックリするまでにプリーツに締まりがないのだ。真っすぐ立っている時は、ストンと直線を描くはずの襞がヨレヨレで……一気に、幻滅したほどであった。 

 スカートの着こなしだけで好意を持ったなんて言えば、相手に対して不敬かも知れないけれど、当のヒロ子さんも案外気さくなタイプで、クラスの男女取り混ぜた仲間たちと始終キャッキャとはしゃいでいたのだが……

 やがて中学も卒業し……高校一年の春のことだ。

 下校の通学バスから下り、つい先の信号で待っていると……なんとすぐ向こうから、あのヒロ子さんが歩いてくるのだ。
 ヒロ子さんは僕を認めると、ごく自然にに手を挙げて近づいてくる。数カ月のうちに、ヒロ子さんは、ビックリするほど大人になっているように僕には感じられた。新しい高校の制服はブレザーだったの思うが、スカートはやはり膝丈の紺のプリーツで……中学の時と変わらず、優雅な動きを見せている。
 それでいて……そんな優雅なスカートの内側には、すでして子供ではない「女性」が潜んでいる……そんな感覚……
 ヒロ子さんは、信号待ちをしている僕のすぐ横まで近づいてくると、

「どうしたの? カート君……」

 そう。僕は大人になってしまったヒロ子さんに対して、笑顔で応えるどころか……いっそソッポを向き、無視を決め込んでしまったのだ。

 それが、ヒロ子さん見た最後になった。

 後年……自らの自意識過剰を悔い、傷つけてしまっただろうヒロ子さんになんとか詫びたいとも思ったのだが……ついぞその機会は巡ってこなかった。

 思えば、当時の僕は……未だに中学生だったのだろう。
優雅にプリーツスカートを着こなしたヒロ子さんは、確実に何歳も年上に見え……もし、僕が子供のままの「ノリ」で対したならば……こんなことはあり得ないのだが……大人に成長した他の多くの、かってのクラスメートがアチコチから現れ……僕に揶揄の爆笑を浴びせるのではないか……そんな強迫観念に襲われていたのだ。 

 面白いもので……今でも僕が夢に見る美少女は、確かに顔形はヒロ子さんとは似ても似つかないながらも……いつも白い(夢では補色になるのか?)、ピシッとしたプリーツの、膝丈のスカートを穿いているのだ……    

貧乏人です。創作費用に充てたいので……よろしくお願いいたします。