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【2000字のドラマ】「ホシノサユリ」と「りほこ」と「サドトオル」のとある1日

『おまたせ~!』
手を振る僕の前には、赤いサンダルをはいた彼女。今日ぼくは、交際を申し込む。
僕の理想の女性像は、かなり明確だ。明るくて、責任感があって、目を見て話す。仕草や表情・少し方言がある話し方、顔を膨らませて怒るなどかなり詳細まで言える。
大学卒業してから、何人かの人と付き合った。でも理想とは、程遠く別れてしまうばかり。そして、最近出会い系サイトに登録した。何人かの人と会った。それでも僕の理想の人とは、なかなか出会うことが出来ない。

ホシノサユリ・・・

ほんの出来心でその名前を検索した。
すると驚くことに1人の女性がヒットした。直ぐに連絡を取りあう事にした。会話も早々に僕は彼女と会うことを決めていた。少し会話をし、連絡先を交換し少し強引な感じもしたが会う事にした。なんだかウキウキというかドキドキというか不安と期待が入り混じった感じ。
当日、約束の時間5分前に彼女に連絡した。
『ホワイトジーンズに水色のジャケットです』
僕の肩をトントンと叩くのを感じて振り返ると
『ホシノサユリです』
彼女は、太陽のような笑顔で僕の目を見ていた。それからの時間は、理想の彼女が目の前にいる事を確かめる時間だった。服装・しゃべり方・目を見て話すところ・明るさ・仕草・・・そして、雑貨を手に取ったぼくに
『そういうのがすきっち、なんか見た目と違うね。』
その方言は、決定的だった。それからは、この気持ちを悟られないように会う事を重ねた。そして今日やっと交際を申し込む。


◆ ◆ ◆ 


『その靴どこで買ったの?かわいい!』
彼女は、私の憧れであり大好きな人。高校に編入してきてすぐクラスのアイドルとなった彼女は、とても魅力的だった。それに比べて私は、その頃同級生から陰で『無気配さん』というあだ名をつけられていた。無視されるわけでも、いじめにあっているわけでもない。ただ置物のようにそこにいた。彼女はそんな私に声をかけてくれた。
『りほこっちかわいい名前やね。いつも読んでる本なんていうやつ?』
彼女の屈託のない言葉から始まった私達の仲は、なぜか急速に縮まっていった。
そんなある日誰もいないはずの教室から声が聞こえた。
『どうして無気配と仲良くするの?つりあわないんじゃない?』
とっさに彼女の顔が浮かんだ。
『だって、りほこっち案外面白いよ』
彼女の声が答えていた。それを聞いて私の頬に涙が流れた。私は、止まる事の無い涙をそのままに走って家に帰った。
あれから彼女みたいになりたい。そう憧れてずっと彼女の近くで生きてきた。
大学生になったある日彼女の家に遊びに行った。
『りほこは、かわいいんだからもっとお洒落しないと!着替えてみて!絶対似合うから!』
そういわれ彼女の服を渡された。まるで着せ替え人形だ。
『うん!やっぱり!じゃ次ここに座って!口紅はこの色かな。』
鏡の仲に移った私は、別人だった。彼女に対して憧れが現実になった瞬間だった。
それから、私の部屋のクローゼットには、着る事の無い彼女と同じ服が増えていた。
ある日クローゼットを見ながら「彼女になりきる場所が欲しい」と思った。そして私は、出会い系のサイトに登録をし、そこで出会った人と会う時だけ、彼女を完コピした。服装・化粧・髪型・しゃべり方・仕草……
そして彼女への「憧れ』が「憎しみ」に変わった。彼女の真似をして会った男は、私に優しかったから。彼女は、ずっとこの場所から私を見ていたのだ。
そんなある日、彼と出会った。サドトオルは、初めて会った時から他の人とは違った。下心が見え隠れする人が多い中彼は、それを微塵も見せなかった。なのに、何度も会いたいとこまめに連絡をくれた。そして今日、食事の時に彼から『付き合ってください』といわれた。そこで彼女への憎しみは、消えていった。
あした彼女に、彼氏ができたことを報告しよう。そして、私を変えてくれて「ありがとう」と言おう。


◆ ◆ ◆


『大学生時代の彼が忘れられない。』
りほこに相談しよう。もうダメだ、これ以上自分に嘘はつけない。
大学時代彼から『別れたい』と告げられた時、意味が分からなかった。その頃の彼は、いつも悩んでいて、『前に進んでみないと分からないよ』という私と意見がぶつかっていた。『君は、どうしてそんなに考えもなしに行動しろというんだ』それが彼と話した最後の言葉。その後『別れたい』とメールが来た。意地もあって『わかった』と返した。その時りほこに相談した。
『なぜ彼がそう言ったのかっちいうのがわかんない。』
その時、りほこは、
『彼はまだ子供なんだよ。きっといつかわかる。その時小百合の良さに気づくよ』
と言った。彼は、そろそろ気づいただろうか?そしてりほこは、どう言ってくれるだろう。
りほこは、私の親友だ。彼女の前でだけ私は、いい子を捨てて本音を言える。

『今日夜空いてる?ちょっと相談があるんだけど』
りほこからのラインの返信を待ちながら歩いていると、駅前の雑踏の中に私そっくりの服装をした女の子が目に入った。二度見した。同じような髪形・服装・この前かったばかりの赤いサンダルまで一緒だ。どんな人なのか気になって顔が見えるほうに回ろうとした時、彼女に声をかけた男性がいた。はっとした。

『トオル……』

すくむ足を少し叩いて、私そっくりの女の顔が見えるほうへ回った。
嫌な予感がした。彼女が、私の持ち物の買った店を頻繁に聞くようになったのはここ最近だ。
やっぱり……でもいつから?
私はラインを開きまだ既読になってないのを見て送信取消をした。

#2000字のドラマ


この2000字のドラマは、SNS上の人格と実際の人格が同時に生きて行くことができるようになった今のこの世界。実は、たまたま隣の席に座った人がSNS上でものすごく仲の良い人かもしれないし、現実世界でいがみ合っている相手がTwitter上での1番の友達かもしれない。ということが現実としてあるんだなと思って書きました。

3人の同じとある1日は、それぞれの気持ちがつながらないまま現実を交差する。お互いがネット社会と現実との中で繋がっていく


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