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半年後の結婚式の出席を断った話

Facebookを始めるとびっくりするほど友達と繋がることができた。
出身中学を登録すると同じ中学時代の友達があがってくる。
懐かしいなぁと思いいながら彼とそれを眺める。
「この人ってこの前テレビ出てなかった?友達?」
彼が指さした人は、中学時代に同じ部活だったミナホだった。
ミナホは、なんだかパッとしない子だった。意気込みが空回りするというか、人から好かれたい気持ちが見えすぎてなんだか残念な子だった。仲良くしてたけどその理由の一つにかわいそうだなという気持ちが私の中に隠れていた。
そんな彼女が、最近地方局の番組にたまにでいるのを知ってはいたけれど、彼がそこに食いつくとは思わなかった。

彼は、いわゆるオタクだ。地元テレビやラジオの公開放送などは大きなカメラを持って参戦する。暇さえあれば、生中継を調べて参戦する。
私と彼は、出会い系サイトで知り合った。彼のその趣味に初めはびっくりしたけれど、会えばいい人で私のことを何より大切にしてくれているのが嬉しかった。そのうち彼の趣味についていくようになった。イベントや公開放送は、大体ショッピングモールのようなところで行われる。一緒に過ごしていくと彼のその趣味の時間は私のショッピングやお茶をする時間になっていった。そうすると彼の趣味も可愛いなと思えるようになり、私も自由にできるこの時間が悪くないなと思うようになってきた。そして気づけば私と彼は、結婚することになった。

その彼は、ミナホを見ながら私にいった。
「ねぇテレビに出てる人が結婚式に来てもらえたら僕嬉しいなぁ」
そう言われて私は、すぐにミナホに連絡した。
ー元気?ひさしぶり!ー
彼女のFacebookを見るととても華やかだった。あの頃の人の顔色を伺い続け、空回りし続ける彼女はどこにもいなかった。「私生活がこんな田舎でも華やか人はいるんだ」と思いながらそれが彼女なことに少し戸惑いを感じた。
ーおおっ久しぶりだね!連絡ありがとう!元気にだよー
すぐに返信が来てびっくりした。あの頃仲良くしておいてよかったなぁと思いながら返信をする。突然結婚式に誘うわけにもいかないし……
ー懐かしいね〜今度ご飯でもどう?ー

突然中学時代の友達から連絡が来た。学生時代にいい思い出なんてひとつもない。私は、世渡り下手でどうやって人とつきあうのかわからず、ずっとおどおどしていた。社交的な両親と社交的な妹に囲まれて、家でも学校でもなんとなく居場所がなかった。両親や妹を真似て人と付き合ってもうまくいかなかった。空回りばかりで浮いていった。あの頃の私は、どこにも居場所がなかった。透明人間だった。なのに最近連絡やSNSの友達承認依頼が結構くる。あの時の私は透明人間なんかじゃなかったのかもしれない。そう思ってたのは、私の被害妄想だったのかもしれない。

そんなある日部活が一緒だった友達からFacebookにDMが連絡が届いた。同じ部活で一緒に過ごしたのを思い出した。ご飯を誘われたけれどなんだか気分が乗らなかった。
ーごめん。なんか最近忙しくて…でも元気そうでよかっったよー
そう返すとすぐに連絡が返ってきた。どうしても会いたいのか熱烈なお誘いを受け、少し嬉しくなって会うことにした。

久しぶりに会った友達は、何も変わってなかった。なつかしい話をしたけれど私はあまり覚えてなかった。私が覚えてない私を覚えてくれている人がいる事に嬉しくなった。あの時の私は、ちゃんとそこにいた。
そう思った頃、彼女から結婚するのだと打ち明けられた。彼の惚気話を聞く。そんな彼女はとても幸せそうだ。そして彼女は突然「結婚式に出席して欲しい」といった。10年ぶりに久しぶりに会った私を突然に結婚式に出席してくれという彼女の言葉を聞いて気づかされた。やっぱり私は、透明人間だったんだ。人の顔色を伺い続けたヘラヘラした私を思い出した。
半年後の結婚式の日付を告げられた私。
せめて断ろうと思った。今の私はあの時の私じゃない!
「ごめんね。その時期はシーズンだから休みは難しいのよ」
そう言って断った。悔しい。下手くそな断り方だ。この発散されない悔しさは、時間が経つごとに肥大するのがわかっている。そして時間が過ぎた悔しさは、我慢するしかない事を知っているのに……私は、ここで上手な嫌味が言えるほど頭がいいわけでも、直接文句が言えるほど度胸があるわけでもない。

きっと彼女からは「ちょっとテレビに出てるからっていい気になって」などと言われるのだろう。私は、結局その出来事をこうして2000字のホラーという募集に投稿した。この文章がなんらかの形で彼女の目に止まればいいと思っている。俯瞰してこの文章を読んだ時に彼女の心に得体の知れない何かが刺さればいいと思う。今私の中で彼女は「透明人間」である。

#2000字のホラー

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