起業時かかる税金と節税のポイントとは?メリットと注意点を解説
事業の拡大や節税対策を理由に、個人事業主から法人化を検討している方もいるのではないでしょうか。どちらの形態にもメリットとデメリットがありますが、法人化を検討する際に気になるのが税金の支払いによる支出でしょう。
この記事では、起業時に発生する税金や法人化する場合の節税メリット、起業時にできる節税のポイント、法人化に伴うデメリットについて分かりやすく解説します。
起業するとかかる主な税金
まず始めに、起業することで発生する以下の7つの税金についてご紹介します。
・登録免許税
・法人税
・地方法人税
・法人住民税
・法人事業税
・償却資産税
・役員報酬に対する税金
登録免許税
登録免許税は、会社を設立したタイミングで納税が発生する税金です。起業をはじめ、不動産や土地の購入、住宅ローンの借り入れなどで登記を行わなければならない手続きの際に発生するものです。
登記の種類によって税率は異なり、起業時の登録免許税は以下の3種類に分類されます。
・株式会社の場合 資本金額の1000分の7(下限15万円)
・合同会社の場合 資本金額の1000分の7(下限6万円)
・その他(合名会社、一般社団法人など) 6万円
ただし、自治体によっては「特定創業支援事業」という起業する人の支援を行っているところもあります。この制度を利用することで上記の金額よりも減免される可能性もあるため、自治体に確認してみましょう。
法人税
法人税は、法人が企業活動を通じて発生した年度ごとの所得に対して課税される税金です。
個人事業主の場合は個人の収益に対して所得税のみが発生しますが、株式会社など法人として該当する組織は法人税を納税することになります。法人として定義されているのは、株式会社や合同会社などをはじめとした普通法人から、協同組合、NPO法人などが挙げられます。
なお、地方公共団体などを含む公共法人に対しては、法人税が課税されることはありません。また、法人税自体は国税にあたりますが、地方税である「法人住民税」と「法人事業税」とを合わせて「法人税等」としてまとめて表現することもあります。
地方法人税
一般的な法人税と同じく、こちらも会社の所得に対して課税されるものです。名称に「地方」と含まれていますが、地方税ではなく国税となるため、国に対して納税する税金に該当します。
地方による財源の偏りを防止するために納税するもので、国税として納めた後に、各地方自治体に財源が分配される仕組みになっています。分配の際に支出を調整して、地域格差を軽減することが地方法人税の目的です。
法人住民税
法人住民税は、起業した会社の事業所がある地方自治体に対して支払う地方税のことを指します。
住民税は個人に対しても課されるものですが、自治体のさまざまな公共サービスの財源確保という目的があります。そして個人と同じく法人についても、事業所の存在する自治体に対して課税が実施され、公共サービスを提供する代わりに財源確保を担う必要があります。
なお、この法人住民税は「法人税割」と「均等割」の2種類で構成されています。
法人税割は、法人税額に事業規模ごとに設定されている税率を掛けて算出されるもので、均等割は企業の資本金額や従業員数によって税額が決定されます。
法人事業税
法人事業税は、企業が実施する活動において、事業所の所在する地域の自治体が企業に対して課税を行うものです。事業活動を通じて公共サービスへの利用を行う代わりに、必要となる経費を法人ごとに分担して支払うという目的をもって課税が行われています。
公共サービスへの財源確保が目的と聞くと、「法人住民税との違いは何なのか?」と疑問を持たれる方もいるかもしれません。実は、法人税と法人住民税は損金算入ができませんが、法人事業税は損金算入が可能という点で大きく異なります。損金算入とは、会計上では「費用」という扱いではならないものの、税法上では「損金」となるものを指します。
償却資産税
固定資産税の一種で、一定金額以上の「償却資産」を企業が保有している場合に課税されるものです。償却資産とは、例えば、パソコンやネットワーク設備、エアコン、コピー機など企業が業務において使用する設備が該当します。基本的には、減価償却費として費用を計上できるものすべてが償却資産の対象となります。
ただし、自動車税がかかる自動車や固定資産税がかかる土地・建物など、別途異なる税制が用意されている資産などは該当しない資産もあるため、確認が必要です。
役員報酬に対する税金
取締役や執行役など、企業の役職に就任している従業員に対して支払われる報酬は、税法上では給与所得の扱いとなるため、所得税や住民税の課税が発生します。
このとき、役員報酬の金額を多く確保することで、企業としての収益を圧縮できるため結果的に法人税を抑えられます。一方、個人にかかる住民税や所得税が増大することになるため、どちらの負担を抑えるのかを熟慮して報酬を決定するようにしましょう。
法人化する場合の節税メリット
起業を検討している方のなかには、個人事業主から法人化を目指している人もいるかもしれません。法人化をすることで節税が可能になる場合もあるためです。ここでは、法人化する際に期待できる以下6つの節税メリットを1つずつ解説します。
・消費税納税義務が免除される
・給与所得の控除を受けられる
・個人と会社に所得が分散できる
・生命保険料を経費にできる
・従業員への退職金が損金にできる
・家賃を役員社宅として経費にできる
消費税納税の義務免除
個人事業を実施している場合、1,000万円以上の課税売上が発生すると消費税の納税義務が課せられます。ただし、1,000万円以上に達してからすぐに納税義務が発生するのではなく、2年間の猶予期間が設けられています。
個人事業主が資本金1,000万円未満を条件にこのタイミングで法人化をすると、納税免除の猶予期間がさらに2年延長されます。永続的な免除ではありませんが、他にもさまざまな税金が課せられる起業において節税効果が期待できるのは大きなメリットでしょう。
給与所得の控除
会社に属している従業員は、毎月の給与額から一定の金額が差し引かれた後の金額から所得税額が決定されます。差し引かれる金額の条件は、扶養家族の有無や高額な医療費を支払っている場合など家族構成や状況によって異なります。出費が多い条件の人には「所得控除」を行い、出費が少ない人との格差を軽減することが給与所得控除の目的です。
一方、個人事業主は売上から経費を差し引いた金額がそのまま所得税として課税されるため、所得控除のシステムが適用されません。そこで、法人化することで「報酬を支給する」立場になることで、給与所得の控除を受けられるようになります。
個人と会社に所得が分散できる
法人化は従業員が自分1人だけでも可能ですが、発生した利益が1人に集中してしまうと、累進課税制度の影響から所得税や法人税が膨れ上がってしまいます。また、本来個人事業主は家族への給与の分配は認められておらず、青色申告事業主になれば可能にはなるものの控除が受けられないといったデメリットがありました。
しかし、法人化して家族を役員として雇い入れれば、役員報酬の利益を分配させられ所得税を抑えつつ各種控除を受けることが可能です。
生命保険料を経費にできる
個人事業主が生命保険に加入していても、経費では落とせません。確定申告で控除は受けられるものの、最大12万円のため節税対策は期待できないでしょう。
法人化をすれば生命保険の種類にもよるものの、半額から全額を経費処理することが可能になります。経費処理された生命保険料は内部留保を行い、取締役が退職する際に退職金として支払うことが一般的です。
従業員への退職金が損金にできる
個人事業主は自分自身に給与は支払えないため、退職金の名目で積み立てなどを行ったとしても経費に計上できません。しかし、会社の従業員に向けて支払った退職金は、法人税法上では損金算入が認められています。
とはいえ、退職金という名目であればすべて認められるわけではなく、「債務確定要件」に満たないと判断された場合は損金にできません。債務確定要件は、退職するという事実が明確であること、そして退職する日時と金額が決定していることです。これらの要件を満たしている場合は、退職金の支給前であっても未払金に計上して損金算入が可能です。
家賃を役員社宅として経費にできる
個人事業主が自宅を事務所としている場合、業務内容にかかわる費用は経費として確定申告が可能ですが、基本的には家賃そのものは経費に落とせません。一方で、法人の場合は社宅という扱いで自宅を貸し付ける形態にできるため、家賃の半分程度を会社の経費として計上できます。火災保険など各種住宅保険に関しても会社名義で契約することが可能です。
起業時にできる節税のポイント
法人化した場合、起業したその年の活動内容がその後の納税額に影響を及ぼします。従って、効果的な節税対策を行うためには、起業の準備段階からポイントを押さえておく必要があるのです。ここでは、起業時にできる節税のポイントを4つご紹介します。
役員報酬の活用
役員報酬は先ほども触れたように、企業と個人に利益を分散させることで、双方にかかる税率をコントロールできます。起業時に押さえておきたいのは、一度定めた役員報酬の金額は後から安易に変更できない点です。
役員報酬の金額は、会社の業績が悪化したり、ケガや病気で業務ができなくなったりするなど正当な理由がない限り、原則として会期中は変更できません。こうした理由がなく役員報酬を増額した場合、損金算入ができないリスクも発生します。そのため、事業計画は念入りに策定し、企業のおおよその利益額を想定しうえで役員報酬額を決定する必要があります。
資本金額を適切に設定
会社法では資本金額の下限は定められていないため、資本金額を「1円」と設定することも可能です。しかし、資本金が1円というのは継続的な運用において現実的ではないため、妥当な資本金額を設定する必要があります。長期的な運営が可能な収益を得られるようになるまでは、資本金を支出に充てることが一般的です。3ヶ月~半年程度先までのランニングコストを見積もって、資本金額を設定するようにしましょう。
節税対策として資本金を設定する場合は、1,000万円以下の金額設定が適しています。1,000万円以下に抑えることで、中小企業の特例による法人税率の減税や、法人住民税の「均等割」部分の減額などの恩恵を受けられるためです。
青色申告の活用
確定申告の方法には「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。白色申告は申請方法が簡単な代わりに控除の範囲が狭く、青色申告は控除の条件が幅広い代わりに手続きがやや煩雑な点が特徴です。法人化した場合は基本的に青色申告となりますが、申請方法が簡単だからといって白色申告は選ばないようにしましょう。青色申告の方が節税対策になるためです。
青色申告であれば、例えば、赤字を次年度以降10年間繰り越せる「繰越欠損金」、欠損金の繰り戻しを行った際の還付、30万円未満の資産取得における費用を一括で経費として計上(減価償却)などさまざまな節税効果を得られます。
源泉所得税の納期の特例を活用
原則として源泉所得税は毎月納付しますが、従業員人数が常時10人未満の企業は、上半期・下半期の計2回の納付で済むという特例が受けられます。この特例を受けるためには税務署に専用の申請書を提出する必要がありますが、一度提出すれば翌月からこの特例を利用できます。
毎月発生する事務作業量を軽減できるだけでなく、源泉所得税の納付が上半期と下半期で済む事で起業時の初期費用の軽減が可能です。
利益がいくらなら法人化による節税メリットがある?
法人化することで得られるメリットは現事業で出ている利益によって左右されます。これは、所得税率は最大55%が限度であるのに対し、法人税は33%程度というように大幅に異なるためです。
法人化によって節税効果を得るためには純粋な利益額で500~600万円以上、課税所得では330万円を超える金額がボーダーラインとなります。個人単位の所得税・住民税は、課税所得が330万円を超えると税率が20%から30%と大きく跳ね上がるため、同規模の収益を継続的に上げられるのであれば法人化を行い、法人税を納税すれば節税メリットがあります。
法人化はメリットだけではない?注意すべきデメリット面
このように、個人事業主から法人化することで、条件によっては節税メリットを最大限に生かせることがわかりました。しかし、法人化に伴い、デメリットが生じることも留意しなければなりません。
まずは、会社設立による初期費用が大きくかかる点です。事業活動が安定し、継続的に利益を得られるようになるまでは、資本金を切り崩しながら運営を続ける必要があります。
また、経営が赤字に陥った場合、個人事業主の場合は法人に関する税金を納めなくて済みますが、法人化していると法人住民税を支払い続けなければなりません。
さらに、会社経営には社会保険への加入が必須条件のため、社会保険料の支払いも継続して行う必要があります。
これらのデメリットを踏まえて継続的に節税対策を講じるためには、「小規模企業共済」や「中小企業経営強化税制」などの共済制度や税額控除を受けられる制度を積極的に活用することを推奨します。
まとめ
今回は起業時に発生する税金や節税のポイント、注意点について解説しました。
法人化することで消費税納税義務が免除される、給与所得の控除を受けられる、個人と会社に所得が分散できるなどさまざまな節税が可能です。しかし、一度法人化したら簡単には個人事業主に戻れません。自分の事業内容や事業規模を踏まえ、メリットとデメリットどちらが大きいかを把握してから法人化を検討するようにしましょう。
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