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読書日記238【そこのみにて光輝く】

佐藤泰志という作家をそもそも知っている人も少ないと思う。映像化されたり、亡くなってからだいぶ経って人気が少しでたんだけど、当時は村上龍や村上春樹・中上健次など有名作家と並び評されていました。著者の故郷である函館市を舞台とした作品が多い。

この作品も綾野剛主演で菅田将暉や池脇千鶴など名優で映像化された。ただ著者は1990年に41歳をいう若さで自らこの世を絶っている。この作品は三島由紀夫賞にノミネートされた。芥川賞にも5作品ほどがノミネートされながら芥川賞は受賞していない。

商業的にも成功せずに3冊ほどの単行本を出版したのみだし「不遇の作家」と言われている。ただコアなファンがいて、函館市民のクラウドファンディングで映画化もされたり、未だに愛読するファンがいたりする。僕の同級生でこの作品を好きな人がいてブックで文庫を見つけた時に懐かしくて購入してしまった。(110円)


生い立ち

1949年(昭和24年)に生まれる。村上春樹と同年の生まれである。高校の文芸部誌に小説「退学処分」を発表する。

1970年(昭和45年)、二浪を経て國學院大學文学部哲学科に補欠合格。1974年(昭和49年)短篇小説「颱風」が第39回文學界新人賞の候補。1979年(昭和54年)「移動動物園」が第9回新潮新人賞候補になる。

1981年(昭和56年)『きみの鳥はうたえる』が芥川賞候補作になって、1982年(昭和57年)に初単行本同名の『きみの鳥はうたえる』を刊行して作家となる。

1989年(平成元年)『そこのみにて光輝く』『黄金の服』刊行。
1990年(平成2年)亡くなる。

村上春樹さんが出版した最初のエッセイ集『村上朝日堂』の最初のエッセイが書かれた日刊アルバイトニュースの後任として『迷いは禁物』という作品を連載してあるとwikiに記載があるぐらい村上春樹と同年代を生きた作家。住んでいたのも東京の国分寺市になっている。村上春樹のジャズバーも国分寺市なので出会いはあったのかなと思ってしまう。

ストーリー

主人公の達夫がパチンコ店で拓児という青年に会う。拓児は人懐っこく「ライターを借りた」のが縁で一緒に食事をとなった。拓児の自宅は海辺のバラックでそこで拓児の姉である千夏にあう。

少し年上な千夏に妙に惹かれる達夫。千夏も達夫に惹かれていく。ただ千夏は娼婦でほとんど無職の拓児と寝たきりの父とその介護をする母の生計を支えている。

それでも愛し合おうとする達夫と千夏。それを歓迎する拓児。ただ障壁も相当で田舎の地元で娼婦にまでなった千夏は若い時に結婚をして、その元旦那が千夏とよりを戻したがっていた。

達夫は達夫で一流企業の鉄工所で正社員として優秀に働くもリストラに対する組合のストライキの執行役にされ疲弊し、会社を退職していた。

それぞれに逃げられない悩みを抱えて、それでもそこで生きていこうとする。架空の地方都市の海辺バラック街で(函館市がモデルらしい)おりなす人間ヒューマンドラマ。

映画化

佐藤達夫に綾野剛。大城千夏に池脇千鶴。弟の拓児を菅田将暉とこんな豪華キャストで熱演されています。監督は呉美保さんでアカデミー賞外国語映画部門の日本代表として出品された有名な作品らしいです。

Amazon PrimeVideoで見れる作品です。こういう作品の特徴でもある自然の映像美と役者のコントラストがとても印象的な作品になっています。

感想

平坦と濃厚な部分が入り混じる世界観がある作品。達夫が付き合うことを決めた後に、「後生だから……」と千夏の母親が千夏に動けない父親の性の処理を頼むシーンがある。この時代に気持ち悪く受け取られないのか?と思いきや若い人のほうがリアルを知っているというか、貧困の中の家族のリアルがある。貧困な家ほど父親や母親の威厳を頑なに守ろうとするリアルがそこにある。死後20年近く経って再評価をされたのは若い世代の貧困化と社会問題みたいなものがある気がする。

一転、千夏はあっけらかんと後半に家族を離れ、達也との家庭を築いていく。ここら辺もリアル感満載で、どういう生活をしていようが生活というのは続いていくのだということが書かれている。

僕の同級生は理系の進学を進めるなかで、その頃に新進の作家であった村上春樹や中上健次を知る中で佐藤泰志を知る。そしてすぐに佐藤泰志は命を自ら絶ってしまう。その衝撃を知って僕に刊行された本(その頃は3冊しかなかった)を薦めた。『泥の河』でデビューした宮本輝さんは1977年に『螢川』で芥川賞を受賞する。佐藤泰志はその年に新潮新人賞を『移動動物園』という作品でとっている。

意識はないのかもと友人は言いながら、宮本輝の『螢川』とこの作品を比べていた。「文章の上手さでは宮本輝だけど、なぜか佐藤泰志を読んでいたいと思う自分がいる」といっていた。そうやって同級生は中学の国語の先生をしている。文学というのは人生も変えてしまう。気になる方は古本屋で探していただくのもいいかと思います。


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