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おこめのおはなし~その7・お米の種類――推奨米ってなあに?

 せちがらいお金の話題ばかりが続いて、ちょっと読みにくく、というよりも、はっきりと書く方もあきてきてしまったので、話題を『お米』そのものにしたいと思います。

 なんども名称として出してきました『推奨米』

 たいていの各県で『 我が県はこの品種をイチオシにして農家さんに作っていてもらっていますよ 』というお米の品種のことだとお話しました。

 ざっと皆さんが思い浮かぶお米の銘柄といえば、このあたりでしょうか?

 北海道の『 きらら397 』『 ななつぼし 』
 米どころ新潟といえばやっぱコレでしょ! の『 コシヒカリ 』
 宮城だって負けていない! お米といえば『 ひとめぼれ 』
 東北の隠れた食いどころ、秋田の『 あきたこまち 』
 どえりゃあ美味いもんが食いたぁな愛知の『 あいちのかおり 』
 鳥取や島根でひそかに人気が出だしている『 きぬむすめ 』
 福岡と佐賀などで頭角を現している『 夢つくし 』
 くまモンのイラスト入りパッケージですっかりおなじみ、熊本の『 森のくまさん 』
  そして沖縄の『 ミルキークイーン 』

 など、といった有名どころでしょうか?
 特筆すべきは、大昔の学校の授業では北海道と沖縄ではお米はつくれない、と教えられていたというのに(世代がバレますね……)いつの間にか、気候や環境、風土の特性を克服し、銘柄米まで誕生させてしまった、というところでしょう。

日本人のお米の情熱は、すばらしいものがあると思います。

 さてさて、学校の授業で習う、といえば。
 古くから、美味しくて有名なお米であるコシヒカリの双璧として登場する、あのお米!
 忘れてはならない『 ササニシキ 』ですね。

 まったく食味が違い、好みがわかれるこのコシヒカリとササニシキ。
 なんと実は、兄弟品種なのです。
 同じお米を親にして品種改良したのにもかかわらず、兄弟でこんなにも違っているなんて、お米の世界は実におもしろいですね。

 さて、このササニシキですが、近年は作付面積が減ってきています。
 というよりも、ほとんど農家さんが作付けから手を引いてしまっています。
 味は文句なしにおいしいのですが、穂が高くのびてたおれやすく、また病気に弱く、その上冷害の影響を受けやすい、という特性、いえ弱点があったためです。

 覚えておられる方もいらっしゃるかと思いますが、90年代初頭に平成の大冷害がありました。

 この時、多くのお米農家さんが被害にあわれたのですが、なかでもササニシキの農家さんは大打撃をうけました。


 その規模たるや、翌年からの作付けにササニシキを選んでよいのかどうか、躊躇するほどだろうと作況指数から推察できます。
 『 作況指数 』とは、平均的な収穫量を100として、該当年の収穫量を数値化したものです。
 平成の大冷害のとき、米どころであるはずの東北地方の指数は56だったのです。

 しかしこの時、コシヒカリを親にして改良を重ねて、よりササニシキにちかい食味を持ちつつも、病気と寒さに強い新品種が開発された直後だったのです。
 ササニシキの農家さんは冷害のあと、新品種の作付けに移行されていきました。
 この、農家さんを救った英雄のようなお米。
 それが、『ひとめぼれ』なのですね。

 『 ひとめぼれ 』が登録されたのが、1991年。
 『 平成の大冷害 』として記憶されているのが、1993年。
 ひとめぼれは奇跡のようにあらわれた、お米農家さんの救世主といえるでしょう。 

 日本全国各都道府県が『 我が県のお米といえばこのお米 』とプッシュするお米のほとんどに、コシヒカリやササニシキの系統や食味の類型が組み込まれています。
 それだけ、コシヒカリとササニシキは日本人の『 おいしいお米を食べたい本能 』に訴えかける、『 特別な何か 』をもった品種なのだと思います。

 さて我が住まいである県では、『 ハツシモ 』という品種が推奨米となっています。
 食味としては、ササニシキの類型にはいるお米になります。

 元々は愛知県で開発されたお米でありまして、濃尾平野の土壌特性に最適化したお米だとかいうすごい話を以前聞いたことがあります。

 気候とかならともかくですよ、土ですよ、土の特性。
 濃尾平野の土を好むので、他県では栽培してもあの独特の風味がでないのだそうです。
 実際に隣県在住の実兄によると、かの地で作付けされているハツシモは、実家でとれるハツシモとはまったく別物だといっていました。

 なんかむちゃくちゃスゴイ感じがヒシヒシと伝わって来るのですが、作っている方ではなんも感じません。
 ごめんなさい、開発された皆さん……!

 『 ハツシモ 』の特性としては、お米の粒が大きいとされるコシヒカリ系統のお米よりも更に一粒が大きい、という点があげられます。

 この大きなお米の粒のおかげで、他の品種よりもさらにモチッとツブツブ感が味わえるのです。
 が、べっちょりとしているわけではなく、嚙みしめるとじょじょに味が口の中に広がる品種です。
 お米と一緒にもったりこってりとしたルーで仕上げたカレーを、こう、がががー! と一気にかきこんで食べたい! という人には、まさにもってこいの品種なのではとうぬぼれています。

 主張しすぎない甘さがあるので、ホントにあきません。
 冷めてもパサパサになりにくく、もっちり感が持続して甘みが落ちないので、塩味はもちろん、いろんなネタのおにぎりにして、大好きなお味噌とおつけものといっしょに毎日ぱくぱくいただきたくなるお味です。
 うーん、魅力がうまくつたわっているでしょうか?

 味の魅力は充分に伝わったものとして、この『 ハツシモ 』を田んぼで育てる際の特徴をすこしお話ししてみましょう。

 『 ハツシモ 』という名前の由来は『 初霜 』。

 つまり、はじめて霜がおりる頃に刈り入れをはじめる品種だからついた、といわれています。
 実際に幼い頃、はじめてこの『 ハツシモ 』の栽培を手がけた頃はあまりの収穫時期の遅さに驚いた記憶があります。

 私が小学生の低学年の頃まで、このあたりの主たる栽培品種は『 日本晴(にほんばれ) 』というお米でした。
 この日本晴もどちらかというと収穫時期のおそいお米だったのですが、それよりもさらに2週間ちかくおそい収穫時期だったんじゃないかな、と記憶しています。

 県内で長く栽培されていた『 日本晴 』ですが、あっという間に『 ハツシモ 』に取って代わられます。
『 日本晴 』は粒が小ぶりで、かっちりとした食感のあるお米です。
 味も悪くありませんし、なによりも病気に強く、稲穂が出てから倒れにくく、収穫量が高いというまさに『 優等生 』という印象の品種でした。

 しかし『 ハツシモ 』のあの独特の風味、食味、食感には適いません。
 引き合いがあればたくさん作ろうというのが世の流れなので、結果、『 ハツシモ 』は『 日本晴 』に取って代わる銘柄となったのでした。

 ですが、この『 ハツシモ 』。

 先の項でも書きましたが、1反あたりの収穫量が少ないのです。
 しかも、特定の病気に弱く、稲の背が高く伸びる特徴から倒れやすくもあります。

 病気になったり、倒れたりして白米にした時に形がくずれていたり黒いシミがあったりすると、一等米の評価が受けられず二等米になってしまう、とこれも先の項で書きましたが、ハツシモ生産農家は、収穫量はともかく、長くこの病気と倒れやすいという特徴に苦しめられることになるのでした。

 収穫量が他のお米より1俵2俵かわってしまうのは仕方がないとして、半年もの間、丹精こめて育てたお米が、最後の最後のほんのちょっとのことで評価が下げられてしまうのは、なんとも切ない。

 どうにかならないものかなあ、というのが、ハツシモ生産農家の切実な思いだったのでした。


※ 奨励品種についてのWikipediaのページです・参考までにどうぞ ※

※ お米の品種についてわかりやすいHPです・参考までにどうぞ ※


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