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おこめのおはなし~その4・お金のはなし――出費モンスター

 その1の項で、1町イコール10反の田んぼがあったとしても80万そこそこの収入にしかならないんですよ、と書きました。

 正しくは、私の住まいであるG県が推奨しているお米『推奨米』を育てている場合では、です。
 他県では、もう少しあったり逆に少なかったりすると思います。

 我が県の『推奨米』なのですが、実はこの銘柄はブランド米としてあまり全国区ではなく、ほぼ東海地方限定(というよりものG県限定)流通のため、買取価格が抑えられている傾向にあります。

 おおよそですが一等米の評価をうけたとしても、よくて1俵60キロが12,000円ほどであるのは先述のとおりなのですが、実は他品種と比べて、1反当たりの収穫量も少ないのです。

 1反でおおよそ平均6俵ほど、7俵をこえてとれれば豊作だ、と各農家は喜びの声をあげます。


 ここで、他の有名銘柄米の一反あたりの収穫量をみてみましょう。
 コシヒカリですと豊作時で1反あたり、おおよそ10俵近く。(平均で7俵くらい)
 ひとめぼれ、あきたこまちで豊作時で一反あたり、おおよそ7・5俵近く。(平均で6・5俵くらい)

 銘柄米は、我がG県の推奨米より僅かですが収穫量が多いですね。
 しかし、もう一つ、買い取り価格の違いが大きくものをいってきます。


 買取価格、1俵につき1,000円~2,000円ほど違ってきます。
 一等米二等米の差がつけば、更に2,000円~3,000円の差なんてあっという間です。

 そうなると、単純にさっと計算してみても、1反あたりの収入差は4万以上にもなってしまいますね。


 魚沼産コシヒカリとか、一体どれくらいの収入になるんだろうねえ、とたまに旦那さんとのあいだで話題にのぼります。
 とはいうものの米百俵に換算すると、いっても130万~140万くらいに留まるレベルではあるとは思いますが。

 たとえばです。
 サラリーマン家庭の平均的な年収である、350万~500万の方と肩を並べるだけの収入を得ようとすると、コシヒカリ農家だとしても最低でも3町必要になる計算になりますね。
 我がG県ですと、5町は必要になります。


 田んぼ30~50枚のお世話は大変そうだけど、でも専業で米農家になるんだったら大丈夫なんじゃないかな? と思われるのではないでしょうか?

 実は、専業米農家としてやっていこうとしたら、最低でも15町は必要になります。
 これでもギリギリラインで、できれば20町は欲しいところでしょう。


 不作の時のリスクを減らすために米だけでなく麦や野菜なども生産するなどの計算なしでおりますが、単純に10町あれば700万~800万の収入になるのだし、それなら充分にやっていけるのでは? というのは甘い考えなのです。

 では、どうしてそんなにも収入がなければやっていけないのでしょうか?


 それは『農機具』という恐ろしい『出費モンスター』があるからなのです。

 農機具というと、CMなどをみるとさわやかさが売りのタレントさんが、さわやか笑顔で農業用にむいている軽トラックを運転したりですとか、田んぼをオレンジや赤色のトラクターで耕していたりですとか、近年ですと某アイドルグループのおかげでいろいろな農機具に親しみを覚えてくださっているのではと思います。


 ではざっくりと、お米農家に必要な農機具を説明しますと、以下の三つが三種の神器となります。

 1 田おこし機(トラクター)
 2 田植え機
 3 稲刈り機(コンバイン)
 ここに4と5として、通年必須アイテムとして軽トラックと草刈り機が含まれます。

 さて、ここで問題です。


 農機具のお値段は幾らくらいであるか、答えてみてください。
 いったい幾らなのでしょう?
 ひとつだいたい10万円くらいとして、全部合わせて50万円前後かな? と想像されていますか?
 
 正解は、1~3までの農機具は、大体ひとつが、高級ワンボックスカー~高級セダン並みのお値段がします。

 大切なことですので、もう一度言います。
 全部ひっくるめてではありません。

 トラクター一台
 田植え機一台
 稲刈り機一台
 それぞれ一台につき、高級ワンボックスカー~高級セダン並みのお値段がします。

 これだけの高い買い物ですので、当然、農機具をおさめるための巨大な農機具小屋が必要となります。


 軽トラックと草刈り機を含めて、広さとして家一軒軽く立つだけの敷地面積が必要となります。
 自家用車は野ざらし駐車をしてても、農機具さんは屋根付き壁付き換気扇付きのごりっぱな小屋に鎮座、というスタイルがここら辺では鉄板なのです。

 やりきれないですが、仕方ないのです。
 野ざらしなんてしちゃったら、すぐ壊れてしまうデリケートな農機具さんたちですので……。

 これら農機具をそろえるだけで、ちょっと郊外の地価が安いところなら土地付きソーラーパネル屋根付きエコシステム完備の家が一軒買えてしまうくらいの初期投資が必要となるわけです。


 当然のことながら、高額な上に特徴的な機械ですので、故障時の修理代もそれなりに高額になります。

 そうなると車のように10年くらいで買い替え、へたをするとモデルチェンジしたからこっちに乗り換え、なんていうわけにはいきません。
 我が家でも実家でもそうなのですが、兼業農家の方は修理に出しつつ、20年30年と大事に乗り継いでいらっしゃいます。

 しかし機械の寿命は当然訪れますので、買い替え時期は確実にやってきます。


 ここで、そんな高い機械を使わなくても、たとえば乗用の田植え機じゃなくて手押しのにしたりとか小型のにして出費を押さえればいいのでは? という指摘が出てくるのではないでしょうか?

 たしかに、そうすれば出費は100万単位でおさえられます。

 ですが、みなさん。
 現在、稲作農業をになっているかたの年齢を、気にされたことがあるでしょうか?

 平成22年度における、稲作農家従事者の平均年齢をご存知ですか?

 66.6歳。


 つまり、年金受給年齢をとうに超えている方々に頼っている状態なのです。

 そのような方に、ぬかるんだ泥の中を歩いて農機具を押したり、時間をかけて作業をすれば予算を抑えられるから、と言えるでしょうか?

 我が家の近所で田んぼを持っているお宅で、農機具の買い替えをきっかけとして農業から手を引かれる方が多いのは、金銭的な理由ともうひとつ、精神的肉体的なしんどさが切実にくる・・からなのです。


※ 参考HP ※

農林水産省  第1部 第2章 http://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/h22/pdf/z_2_3_1_1.pdf#search='%E7%A8%B2%E4%BD%9C%E8%BE%B2%E5%AE%B6+%E5%B9%B3%E5%9D%87%E5%B9%B4%E9%BD%A2++%E5%B9%B3%E6%88%90%EF%BC%92%EF%BC%92%E5%B9%B4%E5%BA%A6'


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