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赤色のハスラー

郵便当番。同期が忙しそうで代わってあげた。
何気なく車を運転していたら赤色のハスラーが見えた。
赤色のハスラーを見ると石黒さんを思い出す。

石黒さん、私の上司。
今は亡き、
石黒さんにはよく怒られた、というか怒らせてしまった。
手続きミス、凡ミス、同じ質問、おつむの弱い私は石黒さんを困らせた。

石黒さんはグルメで、お喋りな人だった。
「あんたいつもお菓子貰いに来てさー、困るがね〜!」
と言いながらルマンドやチョコボールをもらった。いつも美味しそうなドリンクを飲みながら、一生懸命仕事をしていた。
晩御飯の話をしたり、孫や犬の話を聞いた。
些細なことで怒られた。でも、ベーグルを一緒に食べた。
仕事には真剣、プライドが許すまで確認をして、責任感の高い人、という印象だった。
私は大雑把なのでうんざりしたな。
嫌いじゃなかったです。お母さんみたいな人でした。

2月前半、もう1人の上司から個室に呼ばれて、
「石黒さん、もう長くないよ」と言われた。
その2日後の月曜日に亡くなった。
雨の日だった。
病院のことも後から知った、
病名を聞いて、石黒さんが懸命に生きてたんだ、と思った。未だに私と課長しか病名を知らない。部署の人がわんわんと泣いた。私はと言えば残された仕事が気がかりだったのと、実感が湧かないのとで、泣けなかった。泣いとけば良かったかな。最後に石黒さんに怒られた時の睨んだ顔が脳裏に浮かんだ。

未だに石黒さんのことで泣けていないし、実感が湧いていない。なんでだろう。まだひょいと出てきてルマンドをくれそうだ。

石黒さんの机から出てきた、 いちご狩りのチラシ。鉛筆で丸がつけてあって、「予約!」と書かれていた。生きたかったんだなぁ。

最近、よく生きたいと思う。強く思う。
そうした時に脳裏に石黒さんが浮かぶ。

石黒さん、そちらの世界はどうですか?
病気から解放されて、美味しいお菓子を食べてますか。
心配かもしれませんが、仕事は私が毎日頑張ってますよ。ミスは大目に見てください、なんてね。

またベーグル、食べたいですね。

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