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flow Essence

小学校に上がるくらいまで、私は自分が人間だということをとても不思議に感じていた。心が、何だか奇妙なかたちのなじめない器に入れられているような気がして、どうにも居心地が悪かった。
父と母と弟に囲まれ、ごく普通の平穏な毎日を過ごしていたのだけれど、ふと、狭い路地でひとり地面にらくがきをしている時、雨の日に留守番をしている時など、じわりと違和感が胸のあたりに湧き上がり、
「なんで、私はこの姿でここにいるんだろう」
人間のかたちをした体がまるでなじみのない器のように感じて、不安な気持ちに苛まれてしまう。
そんな時は決まって、器の中でふわふわしているものが、
「それでいいんだよ」
と言うように、おだやかに体へと広がり、ハッ、と私はいつもの自分を取り戻す。

ありがたいことに成長するにつれ、次第にそんな違和感は薄れ、私の心はすっかりこの器になじんでしまった。
でも、今もその時の感覚はうっすらと残っていて、自分が人間であることにほんの少しだけ懐疑的になったりもする。

そのせいなのか、野や山など自然の中にひとりでいると、ほっと心が緩む。無理に人間でいる必要がなくなり、呼吸がしやすくなる。
樹木や野草と共に佇み、小さな生き物に心を寄せる時間は、私にとって、生きてゆく上での必要不可欠なものとなっている。

そんな日々に漂いながらの、ひとしずくの思考空間。
ささやかながら、お付き合いいただけると嬉しく思う。

(「note創作大賞」への応募のため、過去記事を改めて上げてリンクを張っています)

「きれいに消える」~flow Essence①

「四分休符」 ~flow Essence②

「鉱物の色」 ~flow Essence③

「距離感」 ~flow Essence④

「黄落」 ~flow Essence⑤


神社仏閣をとりまく鎮守の森を守りたいと思っています。 いただいたサポートはその保護への願いをお伝えし、参拝の際、奉納させていただきます。