見出し画像

黄落 ~flow Essence⑤

石造りの鳥居をくぐる前から、境内が金色に輝いているのが遠目に見てとれた。末広がりのささらな銀杏落葉が一面に散り敷かれ、その真ん中に背筋の伸びたご神木がすっくと立っている。はるかな青空にまで黄葉の明るさが届くほどの大銀杏だ。
「まあ、なんとすごい木やなあ」
「落葉も金色や」
コートを着込んだご婦人方、パグ犬を連れた少女、一眼レフを肩に掛けた革ジャンパーの男性……誰もが一様に大銀杏を見上げて、まずは笑顔になる。
黄金色の啓示を天から授かったかのように。

画像1

透けて見える枝の繊細な美しさ、かすかな風にも落ちてゆく黄葉の軌跡を追いながら、ふと心の中に「ご利益」という言葉が浮かぶ。
満身にまとう光の葉を落してゆくように、ご利益を人々に与えながら、神様はご自身を犠牲にしておられるのではないか、そんな思いがよぎったのだ。

多くの神社に参拝しつつ、ずっと私は「ご利益をいただく」ということに違和を感じていた。もちろん人並みにお願いしたいことはあるのだけれど、手を合わせてお任せしてしまうことに何かひっかかりを感じてしまう。
お願いをするのなら、私から何か神様にさせていただけることはないのか、そうしなければ申し訳ないような、そんな気持ちがずっともやもやと漂っている。

画像4


しばらく中天にかかっていた綿雲が流れて、また日の光が戻る。
小ぢんまりとした境内には、やわらかくおおらかなご神気が満ち、
「こまかなことは気にしなくても大丈夫。でも心には留めておいてほしい大切なこと」
そんなお言葉をいただいたような気がした。

画像3

画像4

丹生酒殿神社にうさかどのじんじゃ」の鎮まる和歌山県かつらぎ町三谷は、昔ながらの集落の長閑さが感じられる地。
訪れた方たちもお参りをして終わり、大銀杏を見て終わり、といったふうではなく、境内のベンチでくつろいで、黄落の時間そのものをゆうるりと楽しんでおられるような空気感。
めまぐるしく過ぎる日々の中、立ち止まって大きく深呼吸したような、快い初冬の参拝だった。



この記事が参加している募集

#カメラのたのしみ方

55,133件

神社仏閣をとりまく鎮守の森を守りたいと思っています。 いただいたサポートはその保護への願いをお伝えし、参拝の際、奉納させていただきます。