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真夏の粉河寺【西国三十三所・第三番】

8月初旬、炎暑の下、西国第三番札所・粉河寺(和歌山県紀の川市)に参拝しました。
粉河寺にはすでに何度か足を運んでいるのですが、しばらく時間が経つと、
「またお参りに行こうかな」
そんな気持ちになるお寺さんです。

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明るい夏空に建つ紅色の大門。桂の木で作られた大きな仁王像は迫力満点、両側から参拝者を見降ろしています。
仁王様は「寺院」の守護をしてくださるのだそうです。

鎌倉時代に隆盛を誇った粉河寺は、豊臣秀吉の兵により多くの伽藍を焼かれたため、広い境内には後の江戸時代、徳川幕府の庇護によって再建されたものが多く残っています。
天下泰平となった江戸時代、その時代の空気感を表すように、ところどころに江戸の職人さんの遊び心を見ることができます。

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まずは手水舎。手水は中央の蓮の花から豊かに流れているのですが、両脇の柱に施された狛犬さんがちょっとおどけた感じ。

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「阿」は指をくわえて、まるで赤ちゃんのよう。

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「吽(うん)」も人の好い翁の風貌です。

人間は、「阿」の口をして大声で泣きながらこの世に生まれ、そして、「吽」のように口を閉じて静かに昇天します。
この柱の「阿」から「吽」までは人の一生。その間ずっと、蓮から流れる水のように、仏様の恵みが絶え間なく注がれていますよ、ということを表している手水舎だということです。
愛嬌のある「阿吽」、意味を知るとより味わい深く感じます。

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手水舎の屋根瓦には、くるくると渦巻く水の流れ。粋な意匠、真夏の空に似合います。

手水舎を過ぎると、見上げるほどに大きな中門が現れます。堂々とした「風猛山」の扁額は紀州徳川家十代藩主・治宝候の直筆です。

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その扁額の上方には、鬼瓦が置かれているのですが……

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爪をそろえて、なんとも愛嬌のあるお顔立ち。
鬼瓦は「魔除け」や「厄除け」の意味があり、恐ろしい顔をしていることが多いのですが、こちらは「ようこそ!」と出迎えてくれるような、そんな鬼瓦です。

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中門を守護しているのは、ちょっとイケメンの四天王(毘沙門天・広目天・持国天・増長天)。写真上は仏舎利を手にした毘沙門天で、少し愁いを帯びた表情が魅力的です。写真下の広目天は大きな目を見開き、見聞したことを余さず書き記そうと巻物を持っています。手甲やベルトのバックル(?)の細かな彫刻が見事です。

「寺院」を守る仁王像に対して、四天王は「仏教」そのものを守ってくださるとのこと。守護にもそれぞれの役割があるのですね。

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中門を抜けた先には、桃山時代の作庭だと伝わる、立体枯山水が広がります。左手中央にひとつ、すっ、と高く立っておられる石は観音様。
他にも亀や鯨、鳳凰が隠されており、それを見つけるのも楽しみのひとつです。

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亀といえばつい、横から見た背のこんもりと山型になった姿を思ってしまいますが、この庭にいるのは真上から見た大きな甲羅の亀。常識にとらわれず、さまざまな角度から物事を見る、ということを教えてくだっているのだそうです。

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緑のソテツは鳳凰を表しており、少し引いて見ると、鳳凰を背負った亀の横姿のようにも見えます。
真夏の空とのコントラストが美しかったです。
(でも……かな~~~り暑かったです~~~)

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こちらは鯨。
今、庭を見ている私たちも、鯨と共に架空の大海にいて、でも、高みにおられる観音様の慈愛を一身に受けている、ということだそうです。

石はどれもかなり大きなものなのですが、すべて和歌山市の和歌浦の海から運ばれているとのこと。それだけの人とモノを動かせる力が仏様(寺院の力ではありません)にはあるのだ、という誇示にもなっているという、立体枯山水の庭でした。

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枯山水の横にある階段を上ると、いよいよ粉河寺の本堂が。西国三十三所の中では最も大きなお堂で、お参りをする「礼堂」と仏様がおられる「正堂」が融合しており、とても風変わりな屋根の形をしています。

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御本尊の千手千眼観世音菩薩は「絶対秘仏」。今まで一度も開帳されたことがなく、防火カプセルの中、地下で眠っておられるそうです。
御本尊が秘仏の場合、お前立ち(おまえだち)として、代わりに別の仏様を拝観できることが多いのですが、粉河寺ではその千手観音も「秘仏」。
「せっかくお参りに来ているのに、御本尊にはまったくお会いできないなんて」
と、実は最初に参拝した時にはがっかりしました。

でも、内陣参拝(拝観料400円)をした際、ちょうど内陣の裏側にひっそりと立つ千手観音立像を発見。暗くて細い廊下の壁側におられるので、お顔はわかりにくいのですが、なんとも言えない癒しの空気が仏様から降り注ぎ、思わず手を合わさずにはいられない、そんな仏様でした。
この仏様に会うために、私は何度も粉河寺を参拝しています。
(残念ながら、内陣は撮影禁止です)

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内陣を拝観した後、境内の千年杉へと回ると、太い杉の根元の穴にカブトムシを見つけました。
一生懸命、隠れようとしているものの、隠れているのはアタマだけ……。
なんとも可愛らしいかったです~。

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こんな巨木に守られているカブトムシ、大きなおじいちゃんの懐に居る心地でしょうか……。

この日は友人のJさんと参拝。
コロナ用心のため、それぞれの車で現地集合ということにしました。
(この時、Jさんはすでに2度の、私は1度のワクチン接種済み)
お昼ごはんも、窓を開け放した境内のお茶屋さんで「風猛そば」をいただくことに。
扇風機の風を受けながらの熱いかやくそば、あっさりしてとても美味しかったです。

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もう一つ、美味しかったのは、駐車場横の果物屋さんで買った桃。
私は自宅用に傷のある桃を3つ(500円也)だけ買ったのですが、帰ってから冷やして食べると……甘ったるいのではない、きりりと引き締まった濃い桃の甘味が素晴らしく、
「もっとたくさん買っておけばよかった……」
少々後悔した次第です。
粉河寺の建つ紀の川市は果物で有名な地域。その底力を見せていただきました。

初めて私が粉河寺を参拝したのはちょうど一年ほど前。夫と二人、
「あまりにも暑すぎるね~~」
と、やはり炎天の下、境内を巡りました。
その時、見知らぬ年配の男性(境内にある「粉河産土(うぶすな)神社」の宮司さん?)が声をかけてくださり、手水舎の阿吽のお話や中門の鬼瓦、立体枯山水の意味などを丁寧に教えてくださいました。今回の記事は、その時のお話のご紹介にもなっています。
その方のおかげで粉河寺を巡ることがより楽しくなりました。
ありがたいご縁に感謝です。

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