里山へと登ってゆく山道の脇に、年を経た白梅の木が一本だけ立っている。誰かが世話をしているふうでもなく、後ろの藪が枝の間に倒れ込んでいたり、蔓が幹に絡まっていたりするのだが、毎年きまって三月になると、満身真っ白な花をつけてくれる。
山道の手前には細い道が一本あるだけなので通る人も少なく、だから花が咲くといつも、メジロやヒヨドリなどの野鳥で白梅はにぎわっている。
今日もウォーキングの途中に前を通ると、羽ばたきの音と共に、鳥たちの影が一斉に空へと消えていった。
公園や神社にある梅よりも、この梅の花は小さい。小ぶりな白い花が勢いよく枝の先まで咲いていて、そのリズムの良さは打楽器のよう。蔓に抑えられても負けてはいない、枝の流れも美しい。
今日も間近でたくさん写真を撮らせてもらったので、
「どうもありがとうございました」
白梅にお礼を言って、私は山道を下り、ウォーキングの一本道へと戻る。
春の青空があまりに明るくて、もう一度梅の木を振り返ると、白い衣の、眼の優しい女性の姿がふわりと木に重なったような気がした。早春の逆光が見せる、ひとときの幻。
「ずっと、ここに居てくださって嬉しいです」
心の中でつぶやいて、私はまた春の道を歩き始めた。
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