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葛染めの団扇【和歌山】

先週、Jさんと訪れた、紫陽花の美しい釜滝薬師金剛寺。その山門の手前には「あせりな」という手漉き和紙の工房があります。

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和紙の原料・楮(こうぞ)を育てるところから携わっておられる由、Jさんと立ち寄った工房には和紙で作られたパスケースやポーチ、鞄など、たくさんの和の色の小物が並べられていました。
もともと耐久性のある和紙に蒟蒻(こんにゃく)芋を加えることで、さらに丈夫でなめらかな質感になるとのこと、手に取るとどれも軽くてしっとり柔らかな触感でした。
平台には草木染めの色合いが美しい葉書やブックカバーなどもあり、
「ぜひ何かひとつ買って帰りたいな」
とは思うものの、自分の生活と照らし合わせて考えてみれば、普段使いにできそうなものがなかなか見つからず……。
せっかく買ったのに出番がなく引き出しの奥にしまったままとなる、それがモノにも自分にも一番良くない気がします。

そんな時、レジ横の筒に団扇がいくつか立てられているのが目にとまりました。縦型のすっきりした形で、渋い色合いのドット柄が魅力的です。
「これは葛で染めた和紙を使ってるんですよ。竹の元まできっちりと和紙を張りつめた、昔ながらの団扇の形です」
と、お店の方。
うちには大きく広告が描かれたプラスチックの柄の団扇しかなく、これからの蒸し暑い季節、趣のある団扇が手元にあれば憂鬱な気持ちも少しは楽になりそうです。
お店の壁には北斎の浮世絵を模した「北斎ブルー」の波の絵の団扇も飾られており、とてもとても心惹かれたのですが、少々お高くてあきらめることに。結局、葛で染めた和紙の団扇を購入しました。

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和歌山に住んでいると、葛はあちらこちらで見かける植物です。川の土手を覆っていたり、ガードレールの向こうからひゅるひゅると蔓を延ばしていたり、ちょっとずうずうしいかな、と感じるほど生命力が旺盛です。
でも、葛染めの団扇のグレイは落ち着いたあたたかな色。こんな色合いを秘めているのだと思うと、今までとはまた違った親しい気持ちで葛を見るようになりました。

6月も終わりに近づき、気温の高い日が増えてきました。パソコンの手をとめて葛染めの団扇で風を送る時、ふと、Jさんと参拝した釜滝薬師の紫陽花の色や、「あせりな」で和紙の小物に囲まれた時間を思います。
モノは記憶をつなぐ大切なツールなのだな、と、改めて感じている水無月です。

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