アフターライフ
「お前の人生で一番楽しかった12月24日に戻してやろう。」
赤い服に白いひげを蓄えた男は俺に向かってそう言った。誰だこいつは。
「わしはサンタクロースだ。知らないわけないよな?」
「今年はプレゼントの調達が間に合わなくてな。代わりに楽しかった思い出をプレゼントすることにした。お前の人生で一番戻りたい12月24日に戻してやる。」
こいつがサンタ?なんちゅう高圧的な、、
それにタイムスリップだと?
「おい、何とか言ったらどうなんだ?」
「頭が追いつかないんだよ。サンタクロース? 12月24日に戻る? 何言ってんだアンタ。」
「信じられないのは分かるがな。だが、わしもお前をいつかの12月24日にタイムスリップさせないと帰れないんだよ。分かってくれよ、な?」
「随分作業的だな。夢も何も無えし。」
「まあ現実はそんなもんよ。さあ、戻りたい年を教えな。」
「自分勝手なやつだな、、あー、、分かったよ。」
「いつでも良いんだけど、、そうだな、、2012年にしてくれ。」
「了解した。良いクリスマスを。」
ーーーーー
2012年12月24日。目を覚ますと、俺はベッドの上にいた。
どの12月24日でも良かったんだが、この日は楽しかったような記憶がある。俺は当時大学3年生で、サークルのツレと居酒屋で騒いでいた気がする。
、、久しぶりにツレと飲んで、憂さ晴らしでもするか。
ふとスマホを見ると、ラインが入っていた。
『今日、19:00からな。遅れんなよー。』
三田からだった。こいつとは当時から親友で、今でもたまに飲んだりしている。
ラインに返事をし、ベッドから起き上がった。
時間は正午をとうに過ぎていた。
ーーーーー
「おー、こっちこっち。」
居酒屋の暖簾をくぐると、店内にはすでに三田がいた。招かれるままに席に着く。すでに他のやつも集まっていた。俺が最後に到着したようだった。
すぐに飲み会が始まった。しばらく適当に会話をしていたが、ずっと違和感を感じていた。
こいつらの名前が思い出せない。全く。
なんとなく顔は憶えているが、目の前のこいつが何て名前で、何をしていたやつなのか、全く思い出せない。目の前のこいつも、その横のあいつも、あいつも、、
うろたえていた俺の耳元で三田が囁いた。
「お前、誰も憶えてないんだろ、、?」
ぎょっとして横を振り向くと、三田ではないやつがいた。白いひげを蓄えた老人がそこにいた。
ーーーーー
「くだらない人付き合いしかしてこなかったんだな。そんなやつらの名前なんて、ましてや何をしていたやつかなんて憶えてるわけないよな。」
俺は何も反論できなかった。
「悲しいやつだね、、12月25日以降もお前はそうやって生きていくのか?」
「わしはお前に ”プレゼント” を与えた。それをどう使うかは、お前次第だ。」
ーーーーー
目が覚めると、俺はまたベッドの上にいた。
手に握られていたスマホの画面には「2019年12月25日」と表示されていた。
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