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2021年11月29日の日記

 漕ぎだした自転車の軋みが、ツンと張りつめた冬の空気と擦れ合った。錆びついたチェーンはギリギリと回転し、時折悲鳴のような金属音をあげては、冬の光景の一部になる。

 どの方角かわからない空に月が在る。冬の澄んだ空なのに、目の悪い私にはあの月が多重露光したように映る。信号が赤になって、マスク越しに吸った冷たくて淀んだ空気が肺に入り込んで、家路が少し遠のいたような気がした。

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 気づけば11月ももう終わってしまうみたいだ。年の瀬に毎年感じるこの抗えない無力感は、どうやっても時の流れを止められないことへの諦観か。夏の時の流れは少し粘っこくてドロドロと流れていく感覚なのだが、冬による時間の経過は無機質でかつ加速度的に進んでいくような気がする。

 寒くなると、人は思い出を振り返るようになる。私もなんとなく、過去に行った旅先の写真とか、学生時代の思い出を見返したりしていた。別にそんなつもりはないのだけれど、気が付くと友人に、酒でも飲もう、と連絡を取っていたりする。そして友人も快く承諾してくれる。だから冬は予定がほどよく埋まる。

 思い出せないことが増えた。それを思い出そうとする時間も増えた。それもこれも、冬がそうさせたのだ。

 

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