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ひとりで大体できるもん

 『おひとり様』という言葉がなんの弾みか流行語大賞に選出された輝かしい時代があった。伝説の少女こと観月ありさが同名のドラマに出ていたのを覚えている。今のこの息苦しい時代ならば、ネットの片隅でボヤ騒ぎが起きそうだ。

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 「ひとり」というのは恥ずかしいことか、否か。
 ひとりというのは安易に孤独に直結しかねない不安定な状態なのか。それとも、何者からも束縛されず自分の生きたいように生きられる解放的な自由状態のことなのか。そもそも「ひとり」とは悪か?

 私は元来、人間関係を築く能力が人よりも劣っている。たとえるなら、出来の良いオオカミ少年だ。本当にオオカミを呼び出せるようなアバンギャルドでアウトローな性格をしていれば、それはそれで物語になり得たのだが、いかんせん私は"ただの"人見知りである。そして動物にも好かれない。生物学的にも見放されている。

 ひとりで生きていくことは非常に困難だ。誰からも助けを借りずにひとり突き進む無頼の道、映画の登場人物にするのは容易いが、自分が演じるとなるとその出演料の対価に人生をかけなければいけない。
 某国民的教師に言わせれば、人と人とは支え合って生きているのだ。腐った果実みたいな人間でもいいからとりあえず人との関係を築きなさいこのバカチンが!話はそれからです。

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 人間関係が貧窮な故、かなりひねくれてしまった私はやがて、ひとりで行動できない人間に対してある種の優越感を抱くようになった。このマインドがさらに人間としての尊厳を失わせていることに自覚があるのもさらにまずい。穿った優越感と反転した達観が私の人間性を着実に歪めている。

 例えひとりであっても、私たちは誰しも陰日向に咲ける土壌を持っているはずだ。一様に群れで咲き誇ることだけが花ではない。一輪の花であるならば高飛車な色を、そして凛と咲く花の如く。
 あまりに高く咲き誇った花は、それゆえ皮肉にも摘まれてしまうだろう。日陰で強固に張ったひげ根は簡単には引っこ抜けない。雨が降った土でジメジメと生きよう。

 ただ、おひとり様であることに過剰な優越感を持っていると、かえって劣等感を抱いているような印象に映るようだ。天才と狂人は紙一重。瀬戸内と裏日本をつなぐ陰陽縦貫道路のごとく、中国山脈は想像以上に山深い。

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 私は一人前の「おひとり様」になる。そのためには誰かの助けが必要なのかもしれない。ひとりになるのは意外と難しいのだ。

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