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ひまわりの種 2

 そこに現れたのが先生だった。誰かとすれ違うときは怖くて、どこにいたとしても絶対に顔を見ることができなかったが、先生とすれ違うときは安心して、目を合わせることができた。

 私が一番してみたかったのは、挨拶だった。何度も先生を引き止めて、練習してみた。できなくて心が折れかけていた私に、まずはハイタッチで挨拶の代わりにしようと言ってくれたのも先生だった。他の先生にそんなことを言われても、私は拒否していたと思う。甘えて、一生喋れないままになってしまうんじゃないかと思っていたからだ。でも先生は、軽いノリでハイタッチを誘ってくれて、私は毎日楽しく一日の終わりを迎えることができた。

 それに、私は何か言いたいのに言えないとき、目をつぶる癖があった。私がいつもそうするものだから、先生は筆談も提案してくれた。これもまた、甘えてしまうと思っていたが、先生が言ってくれた、筆談もするけど、交換日記もするという条件で、私は筆談も始めた。先生は、私のことを何もかも分かってくれていた。私の扱い方が上手だった。

 プリントtalkという名前でした筆談は、思いのほか楽しかった。先生の前で文字を書けるようになると、今まで心に溜めていた言葉がどんどん溢れ出てきた。もともと作文は得意だったので、文字だけでも先生の笑いを取ることができた。それが嬉しくて、また私は先生と話すのを楽しみにしていた。学校では感情がないとさえ思われていた私が、先生の前でだけは、顔と文字で自分を表現するようになった。 

 先生は、理科の授業をしていた。もとから理科は好きだったが、私は先生のおかげで理科がもっと好きになった。テストでは、80点以上を取ると名前の横にかわいいはんこが押されるので、毎回80点を目指して頑張っていた。

 「普通」という枠からはみ出した私を、その枠に入れるのではなく、ありのまま受け入れてくれる先生は、私にとって大切な存在だった。



続く

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