見出し画像

ひまわりの種 3

 そうやって、先生と出会ってから学校にも少し希望を持ち始めた私は、初めて交換日記に「先生と声で話したい」と書いてみることにした。家で1時間ほど悩んで、やっと書き上げた文章を翌日先生に持って行った。

 すると先生は、「では、話す練習をしてみましょう!」とさっそく返事を書いてくれて、次の日に時間を作ってくれた。私は正直、「話せるようになるといいね」で終わると思っていたので驚くと同時に、どんなことをするのだろうとわくわくしていた。

 約束した時間は放課後だった。教室を出ると、先生が立って待っていた。隣の教室が空いていたので、中に入って私の前に先生が座った。そして紙とペンを私にくれた。

「家では家族に挨拶とかしてるの?」

『挨拶できてないです。とっさにごめんとかは言えるけど、ごめんなさいって言いなさいってなると言えなくなります。』

「言いなさいってなると言えなくなるのはみんな同じだよ。あなただけじゃない。練習ね、いきなり声を出すのは難しいと思って、先生もいろいろ調べてきて、ティッシュにこうして、息を吹いてみて。先生だと、ティッシュがひらひら動く。できるかな?」

 私はできなかった。先生が気を使って、私を見ないように前を向いて座ってくれたけど、それでもできなかった。先生は「家でも練習しておいて」と言った。私は練習もしなかった。家で練習したとしても、学校ではどうせできないと思ったからだ。結局、その話す練習も1回で終わった。私は挨拶が絶対にしたかった。ハイタッチをすぐにする頻度は減り、小さいメモ帳に「今日は言える気がします」と書いて渡すことが増えた。先生は、こうやって伝えると毎回私の練習に付き合ってくれていた。それが嬉しかった。



続く

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?