鈴木龍也

鈴木龍也

最近の記事

moon child(短詩)

寂しくなれたと思うときに むかし聴いたピアノの旋律を今でも口ずさむ 肩を寄せて聴いたラジオから流れ出す音 海と電線と青空 強くあると思える日も最近は増えて 白鷺は分岐する水流の水平線と沸点を溶けあわす 裸眼で見るものだけが真実だった 貧しさは冬との横着に似ている 白鍵と黒鍵が向かう先ばかりを気にしていて、いつも 見えているものばかりから確認に縋ろうとして、 晩夏は要請された素肌に触れる風の滑稽さを冷笑する 生まれてから一度も日焼けをさせたことがない 誘拐した大衆性を余すこ

    • 「短歌を詠んだら歌集を編もう。」第二期 全歌集一首評

       SPBS THE SCHOOLが主催する歌集編集ワークショップ「短歌を詠んだら歌集を編もう。」の第二期生として、聴講コースに参加していました。  制作コースの10人が作った10冊の歌集は、7月2日(火)からSPBS TOYOSUの店舗、SPBSオンラインストア(下記リンク)で販売されます。  また、7月2日(火)〜7月16日(火)にミニ歌集刊行記念フェアがSPBS TOYOSUで開催されます。会場では、聴講コースのメンバーが作成したフリーペーパーも頒布される予定ですの

      • すべてのこと(詩)

        常になにかと戦っている それは生活のこと それは経済のこと それは喜びのこと 猜疑のこと ミラーボールの 異国のこと 故郷のこと 光の すべてのこと わたしに見せない顔があるのが許せなかった だからわたしにはわたしのすべてを見せるほかがなかった すべてのこと 常になにかと戦っていた 挨拶をするときみの内側に吸収されてしまう 固有名詞の恣意性がこわかった それはほころびのこと 遠い過去の遊戯会のこと 色褪せたお気に入りのぬいぐるみ 消えてしまうことが怖かった 意味がうまれて

        • 20240414(散文日記)

           気がついたらシャツ1枚で街を出歩くことができる気候になっていた。今日に至ってはシャツですら暑く、その存在がうっとおしく感じられた。気がついたらと文頭に書いたが、本当に気がついたらそうなっていた。たまたま暖かくなったから。たまたま日が照っていたから。たまたま気分が良かったから。それでも僕はいずれ暖かくなることを経験として知っていた。明確なタイミングはいつも分からないが、気がついたらそうなることを僕はちゃんと知っていた。  季節のことを懲りもせずにまた綴っている。今年の冬も相

        moon child(短詩)

          ラブ・アンド・ピース(短歌20首)

          短歌連作 ラブ・アンド・ピース 鈴木龍也 ◯ 晩春にだけ咲く桜のバージョン みすぼらしい助詞を好んで使う ポップ・ミュージックの歌詞のように喋って、不安な時は靴を揃えて、 作中の男の子が恋をしてた アニメみたいだとかなり思った Wikiで(連合赤軍の記事を)見る タイムラインが流れて行く 遠い国で主菜で食べられているらしい果実の切り方が分からない 伝えられなかったことの総和 珍しく都内で雪が積もった 暴力のような会話 届いても見てない時間 必要な会話 遠い

          ラブ・アンド・ピース(短歌20首)

          生活のこと

           ここ最近、「生活」という言葉がずっと頭の中にある。なんて言うか、諸所の行動や思想、創作の所出をこねくり回して、カッコつけた理由で大義名分を立たせてたような気がするが、結局は「生活のため」だっていうことが最近の気づきである。生活のため。自分自身の生活のため。去年ラップスタア誕生でvalkneeが、HIPHOPを「暮らしを良くする向上心」と言ったことも、young zettonが自曲の中で、「暮らしを良くしてくのがこの歌のテーマ」と歌うことも、藤本哲明が、「等しく降りそそぐ、罪

          生活のこと

          季節について

           12月に入ってしまった。すっかり街は冬の様相だ。冬に入って、身体は疲れが溜まっているものの、思考はかなり元気だ。  思考というものは、暑さに弱いのだと思う。ぼくが暑さに弱いというのもあるだろうけど、夏には無駄なことは考えないし、ただこの暑さでどうサバイブしていくかということに必死になる。これが良いことか悪いことかは分からないが。実際に、寒い地域ほど、自死率や精神病を患う率が高いらしく、日照時間が短い分陰鬱になってしまうらしい。ただ、ぼくは夏が嫌いだ。  今年仲良くなった

          季節について

          色について語る時にぼくの語ること

           ぼくは、その人の好きな色を聞くのがその人の本質を知るのに一番適した質問だと思っている。生活にはあまりにも多くの色が溢れている。ぼくらは、生まれてから数えきれないほどの色に囲まれている。図工の時間に、まず出てくるのは、目の前の白紙の画用紙をどの色で埋めるのかという問題だ。そこで、受動的にせよ、能動的にせよ、ある特定の色の選択を迫られる。色について、本質的に考える人が少ないからこそ、自分の潜在的意識が色の好みに表れると思っている。  ぼくの最近の大きな変化としては、嫌いとも言

          色について語る時にぼくの語ること

          円環の可能性

           ふと思い立ったので、しばらく散文を書いては人の目に晒すといった(非)生産的な活動を行うことにした。理由はさまざまなものがあるはずだが、現在制作中の作品のための息継ぎなのだろう。ていうよりかは、言い訳。言葉は安易に消化されるべきではないことは確かで、それはそうなのだけれど、そうしたプレッシャーからか、日々絶望感と焦燥感との奮闘を繰り返している。  もっと、容易くすんなりと消費をして欲しいという思いから、推敲もなくただ書くための場所が欲しいという願望から、書いている次第である

          円環の可能性

          Wings(小説)

           2022年教養ゼミ寄稿作品  ◇ 「蝉はね、一夏の間に命を燃やし尽くしてしまうの」 「蝉?」 「そう。蝉は、七年もの間地中で、外の世界のことを思い続けるの。そして、ようやく世界の姿を目の当たりにしても、一夏の間しか生きられない。それでも蝉は、限られた生命を全うしようと、叫び続ける。自らの力の全てを使って。とうとう叫ぶ力もなくなると、大地に仰向けに倒れて、空を見据えるの。自らの死期を感じながらね」 「蝉にとって、命は儚いものなのかな」 「さあね。でも、蝉にとってはそれが一

          Wings(小説)